表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未知なる星の誓い  作者: くろあ
第1章 未知なる世界
7/7

灯した炎

ミナは、森の中を歩きながら考えていた。

何とかして火を起こさなければ

夜の寒さや森の中に潜む危険から自分を守ることができない。


だが、どうやって火を起こせばいいのか、その具体的な方法を必死に記憶の中から

呼び起こしていた。


「確か…テレビのサバイバル番組で……」


ミナは昔テレビで見たサバイバル番組の一場面を思い出していた。

木の棒を使って摩擦で火を起こす光景。

その方法を、何とか自分でもできないかと考えた。


「木の棒と…木の板が必要。

それから、繊維質の細い枯れ草とか…あと、火種を受けるための葉っぱもいるよね……」


ミナは自分の記憶をたどりながら、森の中を探し回ることにした。


まず、彼女は木の棒を見つけるために森の中を歩き回った。

乾燥した木の枝や倒木がたくさんある。

彼女は適当な長さと太さの木の棒を見つけて、それを拾い上げた。


「これならいけるかも…次は木の板……」


木の板を作るには、少し太い木を切り出す必要があったが、刃物がない。

そこで、彼女は刃物の代わりになるような鋭い石を探し始めた。

石は森の地面に散らばっており、鋭い形状のものを選んで集めた。


「これで木を削れるかな……」

彼女は木の枝を削り始め、少しずつ木の板を作り出した。


「いたっ!」


自分の指を切ったり、石で突き刺したりとなかなかうまくいかなかった。

時間はかかり、いびつではあるがなんとか形になった。


次に、繊維質の枯れ草や火種を受けるための厚手の葉っぱを探した。

森には乾燥した草や枯れ葉が散らばっており、なるべく大きく厚手のものを探し

それらを一か所に集めた。


「これで…材料は揃ったかな……」


彼女は全ての材料を前にして、自分が挑むべき次の課題を見つめた。


ミナは木の棒と板を使い、テレビで見た方法を思い出しながら、火を起こそうと挑戦し始めた。

棒を板に押し付け、両手で上下にこすり合わせる。

最初は勢いよく動かしてみたが、棒がずれてうまく同じ場所を摩擦できない。

なかなか摩擦で火種ができる気配がなかった。


「どうして…うまくいかないの……?」


額に汗がにじみ、手のひらは赤くなり始めた。

それでも、ミナは諦めずに板に木の棒をこすり続けた。


しかし、何度試みても、煙が出るどころか、摩擦熱も感じられない。

手はすでに擦り傷だらけになり、痛みがひどくなってきた。彼女の心は折れかけていた。


「どうして……!」


ミナは手を止め、涙がにじむのを感じた。

森の静寂が一層彼女を追い詰める。

火を起こさないと、自分は生き延びられない。

その現実が、彼女に重くのしかかった。


「ユノ……私がユノを守らなきゃ……なのに……!」


絶望感がこみ上げ、ミナは涙をこぼしながら、手のひらを見つめた。

痛みが走り、手は擦り傷で赤く腫れていた。

涙をぬぐい、彼女は再び木の棒を持ち上げた。


「……諦めちゃ、だめ……!」


ミナは決意を新たに、再び木の棒をこすり始めた。

両手で力いっぱいに棒を押し付け、上下に手のひらで回転させながら激しく摩擦する。

手の痛みをこらえながら、何度も何度も同じ動作を繰り返した。


ミナは涙をぬぐいながら火起こしを続ける。

手は痛みで麻痺し、身体は疲労で限界に達していたが

心の奥の「ユノを守らなきゃ」という思いだけが彼女を突き動かしていた。


だが、その瞬間、ふと彼女は考えた。


「私がユノを支えてきたって思ってたけど、本当は……」


ミナは気付いた。いつも笑顔で自分に寄り添い、心の重荷を軽くしてくれていたのはユノだった。

ユノの存在があったからこそ、ミナは強くいられたのだと。


「……私がユノに支えられてたんだ……」


気づいた時、ミナの胸は締め付けられるような思いに襲われた。

自分が守ろうとしていたのはユノだったが、実は自分がユノの優しさに守られていた。

だからこそ、今こそ自分がユノを見つけて、彼女のそばに立つ必要がある。


「私がユノを見つけて、支えなきゃ……」


その思いが、ミナの力を再び呼び起こし、彼女は泣きながらも必死に棒をこすり続けた。



3時間が経った頃、ミナはすでに体力が限界に近づいていた。

手の痛みはもう麻痺して感じなくなっていたが、涙を流しながら火起こしを続けた。

すると、ふと棒の先端から煙が上がった。



「……え?」



ミナは一瞬、信じられなかったが

棒の先端が少しだけ焦げて、煙が立ち上っている。

彼女は急いで、集めておいた枯れ草が乗っている葉っぱの上に火種を移した。



「お願い!」



彼女はそっと息を吹きかけ、火種が徐々に燃え広がっていくのを見守った。

ついに、細い火の光が立ち上り、小さな炎が揺らめいた。


「……やった……」


ミナは小さく燃える火を木の枝を集めたところに移し

燃え上がる炎を確認したとき、全身から力が抜けた。


ついに火を起こすことができたのだ。

彼女はその場に座り込み、安堵のあまり涙を流した。


彼女はゆらゆらと燃える炎を見つめながら、震える手で火に太い枯れ木をくべた。

暖かさがじわじわと体に広がっていくのを感じ、心が少しずつ落ち着いていく。



「……これで、少しは安心かな……」



疲れ切った身体が、火の暖かさに包まれることで次第に重たくなり、瞼も重くなっていく。

目を閉じると、今までの疲労と緊張が一気に押し寄せ

彼女は火を見守りながら、静かに眠りに落ちていった。


炎の暖かい光が、彼女を優しく照らし続ける中で、ミナは安心したように深い眠りについた。



木の枝や燃える枯れ木のパキッという、破裂音でミナは目を覚ました。

あたりはまだ薄暗い、体を起こすと、すぐに感じたのは強烈な空腹感だった。


胃がきしむように鳴り響き、昨夜の疲れがぶり返す。

すでに燃え尽きかけている炎に枯れ木をくべているときに、お腹がなった。


「……お腹、すいた……」


ミナは小さく呟きながら、腹を押さえた。

自分の体が食べ物を求めているのを痛感したが、食べ物は何もない。


とりあえず、水だけでも飲んで空腹をごまかそうと、昨日見つけた川へ向かい

川の水をすくって飲んだ。


冷たい水が喉を潤し、一瞬だけ空腹感を紛らわせてくれた。

しかし、それも一時的なものであり、すぐにまたお腹が空くのを感じた。


「食べ物……見つけなきゃ……」


ミナは顔を上げ、辺りを見回した。森だから果物や木の実があるかもしれないと

少し楽観的に考えていた。果物や木の実ならすぐに見つかるだろう。


そう考えながら、周りが明るくなるのを火に枝をくべながら待ち

日が昇り始めた頃に、食料探しに出かけた。



「森なんだから、果物くらいあるはず……」


ミナは自分を励ましながら、木々の間を歩いている。

葉の茂った大きな木々を見上げる。


どこかに、食べられる果物が実っているだろうと思い、木々を探し回った。

しかし、すぐに彼女はその考えが甘かったことに気づく。


「……高すぎる……」


ミナが見上げた木々は、どれも人間の何倍も高く、実があっても手の届くところにない。

見える限り、手が届きそうな場所には何も実っていない。

木に登ろうと試みるが、木の幹は滑りやすく、すぐに登ることを諦めるしかなかった。


「これじゃ、食べ物が手に入れられない……」


ミナは次第に焦りを感じ始めた。

自分の考えがいかに甘かったかに気づき、少しずつ不安が胸の奥に広がっていく。


地面を探すも、草ばかりが生えている。

食べられそうなものは見当たらず、ただの雑草にしか見えない。


彼女は途方に暮れ、足を止めた。



「こんなに食べ物がないなんて……」



焦燥感が強くなる。森の中だからすぐに食べ物を見つけられると思っていたのに

その現実があまりにも厳しかった。


お腹が鳴り響き、ミナは自分の無力さに打ちのめされそうになった。



ミナは途方に暮れて立ち尽くし、ふと足元に落ちている木の棒を見つめた。


昨夜、火を起こすために使ったものと同じくらいの大きさだ。

さらに、木のツルが絡まるように地面に伸びているのも目に入った。



「……木の棒とツル・・・何かに使えないかな……」



ふと、木の棒とツルを見て、何かに使えそうだと思いながら考えていた。

その瞬間、彼女の頭に一つの考えがよぎる。



「……そうだ、魚を釣ればいいんだ……!」



ミナは急にひらめき、川の存在を思い出した。

水の中に魚がいるなら、釣ることで食料が手に入るかもしれない。

彼女の中に希望が一瞬広がり、顔が少し明るくなった。


「そのためには道具がいる……何とかしなきゃ……!」


ミナは魚を釣る準備をしようと決心した。


ミナは川の近くで、釣り竿に使えそうな木の棒を探し始めた。

硬すぎず、柔軟で長さのある棒が必要だったが

森の中でちょうど良いものを見つけるのは簡単ではなかった。

彼女は慎重に周囲を見回しながら、地面に倒れている木や茂みの中を探して歩いた。


「しなるくらい柔軟な、長い木の棒があれば……」


ミナは自分にそう言い聞かせながら、手頃な棒を探し続けた。

しばらくして、彼女はようやく理想的な木の棒を見つけた。

長さも程よく、柔軟でしなやかそうだ。


「これならいけるかも……」


彼女は棒を手に取り、次に必要なのは釣り糸の代わりになるツルだった。

ツルは木々の間に絡まっていることが多く、少し探せば見つかるはずだ。

ミナは再び周囲を見渡し、木の幹に絡んでいる長くて強靭なツルを見つけた。



「これなら耐えられそう……」



ミナはそのツルを慎重に取り外し、川辺に戻った。これで釣り竿に必要な材料は揃った。


川辺に戻ったミナは、さっそく釣り竿を作る準備に取り掛かった。

まずは、昨日使った刃物代わりの石を手に取り、ツルを使える細さに削いでいく。

ミナは集中しながらツルを何度も削り、釣りに使える強さと細さに調整した。


「これで糸はなんとかなる……」


次に、木の棒を調整する。

ツルの長さに合わせて木の棒の太さや長さを細かく調整し

ツルをしっかりと巻きつけていく。


彼女は何度も確認しながら、木の棒が十分に釣り竿として使えるかどうかを確かめた。


「よし……これで準備完了……」


ミナは満足そうに釣り竿を見つめた。しかし、その瞬間、ふと大事なことに気づいた。


「……餌がない……」


彼女は釣り竿を手にしながら、どうしようかと頭を抱えた。

魚を釣るためには餌が必要だが、手元にはそれに使えるものが何もない。

焦りがまた押し寄せてくる。



ミナは餌が取られてしまったことに気づき、頭を抱えた。ミミズはちゃんと結びつけたはずだ。しかし、魚が食いついたような手応えもなければ、明らかな異変もなかった。


「なんで……」


一瞬考えたあと、ミナは突然何かに気づいたように大声をあげた。


「針だ!針がないんだ!」


そう、ミナは針を用意していないまま釣りをしようとしていた。針がなければ魚の口に引っかかるものがないため、ミミズがそのまま食べられてしまったのだ。


「どうしよう……針、どうやって作るの……」


ミナは周囲を見回し、しばらく考えた。

ふと、足元に転がっている小さな石に目を止める。そして思いついた。


「石で針を作ればいいんだ……!」


ミナはすぐにしゃがみ込み、小さな鋭い石を手に取った。

この石を割って釣り針の形に削り出せば、なんとか使えるかもしれない。

彼女は近くの大きな岩を使って、手元の石を叩き始めた。


「簡単にはいかないよね……」


ミナは慎重に石を叩き割り、細かい破片をいくつも生み出した。

いくつかの破片は鋭利で細長く、少し加工すれば釣り針にできそうな形をしている。

彼女はその中で一番針に近い形状の破片を選び、もう少し削り出すことにした。


石の破片を別の石で擦るように削り、丁寧に形を整えていく。

針の先端部分は鋭利に尖らせ、反対側にはツルを巻き付けるための凹みを作る。

根気のいる作業だったが、ミナは集中して手を動かし続けた。


「もう少し……もう少しで……」


何度も試行錯誤を繰り返し、ついに釣り針らしい形が出来上がった。

針の先端は鋭く、魚の口に引っかかるようになっている。

満足のいく形ができたとき、ミナは小さくガッツポーズをした。


「これなら……うまくいくかも!」


釣り針をツルにしっかりと結びつけ、次にミミズを針に刺す。

そして針を作る間に思い出していた、おもりの問題も解決しなければならない。


「……おもりもないから、沈まないんだ……」


ミナは釣り竿を握りしめ、川の中に餌をしっかり沈めるためには

おもりが必要だということに気づいた。

彼女は川辺を歩き回り、ちょうど手頃な大きさの石を拾い上げた

これをツルに結びつけ、おもりの代わりにすることにした。


彼女は慎重に石をツルにくくりつけ、重さを確認しながら釣り竿を調整した。


「これで……釣れるはず……」


再び、ミナは釣り竿を構え、餌を川へ放り込んだ。

今度は、釣り糸がしっかりと水中に沈み始め、ミナは安堵の息を漏らした。


だが時間が経っても何も起こらない。

最初は期待を込めて待っていたミナだったが、次第に心の中に不安が広がり始めた。

釣り竿はまったく動かず、水面は静かに波紋を描くだけだ。


「これで本当に釣れるのかな……」


彼女は静かに自問自答しながら、じっと水面を見つめ続けた。



「本当に魚なんているのかな……?」


ミナは再び自分に問いかけた。川は清らかに流れているが、魚影は一向に見えない。

水の中に魚がいるかどうかさえ不安になってきた。

彼女は何度も釣り糸を引き上げたい衝動に駆られたが

ぐっとこらえ、もう少し待ってみることにした。


時折、釣り竿を少し動かして餌を揺らしてみたり、手元の感触に集中したりしてみたが

依然として反応はない。ミナの心は焦りと空腹で乱れていた。


「……本当に釣れるのかな……」


不安が胸を締め付け、手が少し震え始める。

彼女はふと釣り竿を見つめながら

もしこのまま何も釣れなかったらどうしようという思いが頭をよぎった。


ミナは釣り竿を握りしめながら

長時間の集中で体力が限界に近づいていることを感じ始めていた。

朝からの空腹感と、体中に広がる疲労が彼女の意識を徐々に朦朧とさせていた

足元がふらつき、頭がぼんやりとして、瞼が重くなっていく。


「……だめ、まだ……まだ頑張らなきゃ……」


必死に自分を奮い立たせるが、身体は言うことを聞かない。

釣り針を作り、ツルを加工し、何度も失敗を繰り返しながらここまで来たが

限界はすぐそこに迫っていた。ミナの視界はだんだんとぼやけ

足がふらついて地面に倒れそうになる。


「……少し、顔を洗おう……」


力が抜けそうになる体を必死に動かし、ミナは川のほとりに向かって歩き始めた。

膝が震え、足元が覚束ないが、彼女は一歩一歩、川まで進んでいった。

冷たい川の水が視界に入った瞬間、ミナは少しだけ意識がはっきりとする。


川の縁にしゃがみ込み、彼女は両手ですくって顔に冷たい水をかけた。


「……冷たい……」


その冷たさに驚きつつも、次々と水を顔にかける。

冷たい感触が体中に広がり、ぼんやりしていた意識が次第にクリアになっていった。

ミナは大きく深呼吸をし、少しずつ自分が現実に引き戻されていく感覚を味わった。


「よし……まだ頑張れる……」


彼女はそう言って顔を上げ、再び釣りの場所へと戻る決意を固めた。


その後釣り場所で水面に集中していた

その時だった。釣り竿の先が「ぴくっ」と微かに動いた。


「……!」


ミナの心臓が一瞬止まったかのように感じた。

目を凝らし、手元の感触に全神経を集中させる。

もう一度、竿の先が「ぴくぴくっ」と小さく動いた。


「……いる……!」


彼女は釣り竿を握りしめ、息を殺して待った。

今すぐ引き上げたくなる衝動を抑え、もっと確実に魚が食いつくまで見極めようと

竿の先をじっと見守る。


水面に映る釣り糸が揺れ、次第に力強く動き始めた。

竿先がぐっと下へ沈み込み、ツルが水中に引っ張られていく。


「今だ……!」


ミナは釣り竿を一気に引き上げた。

竿が重くしなり、水中から何かが力強く引っ張られる感覚が手元に伝わってくる。

彼女は全力で竿を引き上げ、見たこともないような大きな魚が水面を割って飛び出した。


「やった……!」


ミナは興奮に満ちた声を上げながら、釣り上げた魚を見つめた。

水しぶきが上がり、魚が竿の先で力強く跳ねている。

彼女は魚をしっかりと引き寄せ、手でしっかりと捕まえた。


魚の滑る感触が手に伝わり、ミナはこれが現実であることを実感した。

ついに食料を手に入れたのだ。

空腹と焦り、そして不安を乗り越えて、彼女は自分の力で魚を釣り上げることができた。


「……本当に……釣れた……!」


ミナは感動のあまり、再び涙が滲んだ。だが今度は、喜びと安堵の涙だった。


ミナは釣り上げたばかりの魚をじっと見つめ

今すぐにでも食べたいという衝動に駆られていた。

体力も空腹も限界に近づいており、何よりも今すぐエネルギーが必要だった。

彼女はすぐに動き出した。


釣り竿を作るために確保していた木の棒を手に取り、石で削ぎ始める。

魚を刺すために、棒の先端を鋭くする必要があった。

石で木を削る感触が手に伝わり、少しずつ先端が尖っていく。


「これで……いいはず……」


ミナは木の棒を確認し、今度は釣り上げた魚に向かってその棒を刺し込んだ。

魚の口から棒を通し、しっかりと刺さるように2〜3本を貫いた。

そして、火のそばにその棒を突き立て、魚が焼けるのを待った。


魚がじりじりと焼ける音が静かに響く中、ミナはその場に座り込んだ。

煙がゆっくりと空に昇り、焼けていく魚の香りが彼女の鼻をくすぐる。


少しだけ笑みがこぼれる。


「……やっと、食べられる……」


その嬉しさは、今までの不安と苦労が少しだけ報われたような気持ちにさせた。

だが、安堵とともに、彼女の心にはふと学園生活のことがよみがえってきた。


「……ユノ、元気かな……」


ミナは学園生活を思い出す。

ユノと一緒に過ごしていた日々、笑い合いながら放課後の時間を楽しんだ記憶。

だが今、自分は見知らぬ森の中で、必死に魚を焼いている。


「どうして、こんなことになっちゃったんだろう……」


その思いが心の中で大きくなり、自然と涙が溢れてきた。

彼女は声もなく泣き始めた。

ここでこうしていることが信じられず、無力感と孤独感が押し寄せる。


ミナは涙を拭おうと手を上げた。そのとき、彼女は自分の手をじっと見つめた。


「……こんなに、汚れて……」


手は泥で汚れ、傷だらけだった。

木の棒を削ったり、石を削って針を作ったり、魚を釣り上げる作業で

手のひらは擦り傷が無数についていて、すでに痛みを感じる余裕さえなかった。

それを見つめながら、ミナはぽつりと呟いた。


「また……ユノに怒られちゃう……」


彼女の頬に自然と笑みが浮かんだ。

学園ではユノに「女の子らしくしなさい」と言われたことを思い出す。


その思い出が、今はとても懐かしく感じられた。

泣きながらも、彼女の顔には自然と笑顔が広がっていく。


しばらくして、魚が焼き上がった。

ミナは焼けた魚を慎重に取り、まだ熱いそれを見つめた。

彼女は恐る恐る一口かじり、ゆっくりと噛み締めながら飲み込んだ。


「……美味しい……」


その一言が自然に口をついて出た。

焼けた魚の香ばしい味が、口の中に広がり

空腹だった体が一瞬で満たされていくようだった。


何日も空腹を我慢していたせいで、胃に染み込む感覚が強烈だった。


そして、その一口が、彼女の心を再び揺り動かした。


「……ご飯が、こんなに美味しいなんて……」


ミナの目から再び涙が溢れ出した。

今までの苦しさ、孤独、そしてやっと手に入れた食べ物。

それらが一度に彼女の心に押し寄せ、感情が止まらなくなった。


「……美味しい……本当に、久しぶり……」


彼女は一口ごとに泣きながら魚を食べ続けた。

苦しい時も、絶望した時もあったが、ついに彼女は自分の力で食べ物を手に入れた。


その達成感が、彼女の心を埋め尽くし、涙が止まらなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ