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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

御者と冒険者と盗賊

作者: 西山景山
掲載日:2026/04/16


 馬の蹄が地面に突き刺さり、荷室のタイヤが甲高いブレーキ音を奏でる。


「ここが冒険者の街、アドベニアですか」


 王都近郊の街、アドベニア。その一角にある厩舎の前に、一台の馬車が到着した。

 御者台に座る男の名は、ウィンズ。愛馬のマキバと共に、地元で造られた酒を王都へと運ぶ旅路の途中であった。


 しかし「王都周辺で盗賊が出没するらしい」という噂を耳にしたウィンズは、護衛を雇う為この街の冒険者ギルドへと立ち寄る事にしたのだ。


「すみません。王都まで馬車の護衛を一人、紹介していただけませんか?」


 ウィンズはギルドに着くやいなや、手が空いている受付嬢に声をかけた。


「はい、護衛ですね。ご要望のランクはございますでしょうか?」


 冒険者のランクはFからAまで存在する。

 言うまでもないかもしれないが、Aランクに近づくほど実力が高いとされている。


「盗賊が複数襲ってきても確実に追っ払えるか、逃げ切れるかくらいの実力は最低限欲しいのですが」


「でしたら、Bランク以上ですね。ランクが高い分依頼料も跳ね上がりますが、宜しいでしょうか?」


「ええ、お金に糸目はつけません。出来るだけ優秀な方をお願いします」


「かしこまりました。お急ぎでしょうか?」


「ええ。できれば、明日には街を出たいと思っております」


「なるほど。少々お待ちください」


 しばらくして、受付嬢はウィンズに一枚の履歴書を手渡した。


「こちらの冒険者は如何でしょうか?」


 次の日、紹介された冒険者と厩舎の前で待ち合わせる事になった。


「Bランク冒険者のエリーナよ。武器は短剣を2本、魔法は炎魔法を少し使えるわ」


 ウィンズの前に現れたのは、腰の両端に小刀を携えた小柄な少女。

 エリーナはあくまで事務的に、淡々と自己紹介を済ませた。


「ウィンズです。今日はよろしくお願いします」


 ウィンズが人当たりの良さそうな笑みを返すも、彼女の表情が変わる事はなかった。エリーナは挨拶を交わすと直ぐに、荷室へと乗り込んだ。

 御者台と荷室を隔てるのは白い布一枚。しかし道中お互いに言葉を発する事なく、ニ時間程が経過した。


 そんな沈黙を破ったのは、意外にもエリーナの方であった。


「......あなたは、なんで御者なんかやってるの?」


 不意に飛んできた質問にウィンズは内心驚いたが、せっかくの会話の機会だと思い冷静を装う。


「父が御者をやっていて、その流れでなんとなくですね」


「ふーん、恵まれてるのね」


 ウィンズは、その言葉から皮肉というより羨望のようなものを感じ取った。

 再び沈黙の中、馬車は順調に進んでいく。


 しばらくして、前方に一台の馬車らしきものが止まっているのが見えた。

 馬車らしきもの、と表現したのは肝心の"馬"が見当たらなかったからだ。


「これは」


「酷い有様ね」


 そこには言葉では表し難い凄惨な光景が広がっていた。


「護衛らしき人も殺されていますね。ここの盗賊は相当な手練れ、という事でしょうか?」


「......どうでしょうね」


 再び移動を開始する時、なぜかエリーナは荷室の方ではなく御者台にいるウィンズの隣に腰を下ろした。


「......どういうつもりですか?」


「あら、護衛対象の近くにいるのは何も不思議なことではないでしょう?」


「守って欲しいのは私ではなく、荷物の方です。それと、私が聞いているのは()()()()()()()()()()()()()()()についてです」


 いつの間にかエリーナの腰から抜かれた短剣の刃先は、ウィンズの首に向けられていた。


「お酒、金になるんでしょ? 奪わない理由なんて無いじゃない」


「あなたがそんな人だとは思いませんでした」


「私だって!! ......私がこんな人間だなんて、思わなかったわ。殺されたくないなら、早く馬車を出して」


 ウィンズは言われた通り、愛馬に鞭を打ち走らせる。ちらりとエリーナに目を向けると、ウィンズはある事に気づいた。


「手、震えていますよ」


「っ、馬車が揺れてるんだから当たり前でしょ」


「揺れてるのは馬車だけでしょうかね?」


「黙って!!」


 緊張状態の中、馬車は順調に歩みを進めていく。そんな折、不意に何かが風を切る音がする。

 直後、馬車が大きく縦に揺れた。


「なにっ!?」


「何とも間が悪い......」


 何が起きたのかを悟ったウィンズは愛馬を停止させ、両手を頭の上に挙げた。


 野太い声が辺りに響き渡る。


「持ってるもん、全部置いて行きやがれ!!」


 土埃が収まり周りがはっきり見えた頃には、既に盗賊の一味が馬車を取り囲んでいる状態であった。


「リーダー!! この馬車、酒がいっぱい乗ってますぜ!!」


 いつのまにか荷室に乗り込んでいた盗賊の一人が、一味の首領らしき大柄の男に報告をする。


 ウィンズとエリーナは御者台から降ろされ、両手を縛られた状態で座らされていた。


「今度は当たりみてえだな。さっきは、しけたもんしか乗ってなかったからなぁ」


 ウィンズが噂で聞いた盗賊の一味はこの男達で間違いないようだ。


「あんた達は、なんで盗賊をやってるの?」


 エリーナは俯いたまま、盗賊の首領にウィンズにしたのと同じような質問を投げかける。


「んなもん、生きるために決まってんだろ?」


「自分が生きるために、人を殺すの?」


「あぁ? 他人の生死に心を動かす余裕があんなら、こんな事やってねえんだよ!!」


「ぐっ!?」


 質問が逆鱗に触れたのか、首領はエリーナの顔を蹴り飛ばした。


「ちょうど良い。さっき攫ったお嬢様と一緒にてめえらもぶち殺してやるよ」


「さっき攫ったお嬢様、ですか?」


「ああ。どっかのご貴族さまみてえだったから、ガキ人質にしてお金ゆすってやろうかと思ったんだけどよぉ。あのガキなかなか口を割らねえんだよ」


 どうやら、さっき見た馬車にはもう一人乗っていたらしい。


「なるほど。人質がいたから、護衛の方は抵抗できず殺されたという訳ですか」


 ウィンズはエリーナの肩が小刻みに揺れているのが分かった。


「ここは、馬車の上じゃないですよ」


「何言ってんだおま、っ!? 何だぁ!?」


 瞬間、辺り一面に熱が広がる。



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