表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の時魔術師  作者: 東雲潮音
第一章【目覚めた力と旅立ち】
2/48

95戦41勝54敗

 ここはルクス王国の東方に位置するサクラ地方。剣術が盛んな王国内で、唯一刀を用いた刀術が主になっている地方である。


 「ふっ!ふっ!ふっ!」


 そんな地方のとある村の丘の上で、木刀の素振りをしている少年がいた。黒い髪に青い眼、一見すればどこにでもいる普通に少年だが、その身体は強固に鍛えられ、まるで一本の鍛え上げられた刀のようである。


 「おーい!リ~ク~!!!――おりゃあ!!!」


 「え?って、おわぁ!」


 その少年-リクの名を呼びながら、突然同じく木刀を持った少女が斬りかかった。リクは驚きながらも奇襲を受け止めた後、そのまま木刀を薙ぎ払う。少女は薙ぎ払いを軽々と躱し、首元まで伸ばした明るく茶色い髪をなびかせながら後ろに飛び退く。


 「待て待て!いきなり何すんだよ!ツバキ!」


 「何って?いつも通り、一日一戦!」

 

 「お前には騎士道精神ってものはないのかよ、、、」


 「騎士?私達は騎士じゃなくて、、武士でしょ?」


 そうじゃないだろと頭を抱えるリクを見ながら、疑問を浮かべる少女-ツバキは、再び木刀を構え直し、表情を真剣なものへと変える。


 「それじゃあ、リク。今日の一戦だよ」


 「…あぁ、いつでもかかってこい」


 ツバキと同じく木刀を構え直したリクも臨戦態勢を取る。


 「いくよ!」


 「…!」


 前へと駆け出したツバキをリクが迎え撃つ。日課である模擬戦が始まった。



 * * * *



 「…あちゃ~、今日は負けか~」


 丘の坂に座りがらなツバキが悔しさを露わにする。模擬戦の結果はリクの勝利に終わった。


 「はぁ、これで95戦41勝54敗だね」


 「ツバキ、お前、いちいち何回やったのか数えてるのか?」


 「うん、だって悔しいじゃん?負け越して終わるのはさ」


 「…そうだな」


 悔しそうな表情を浮かべるツバキの横に座りながらリクは微笑む。


 「いつも言ってるだろ?ツバキは、勝機と捉えた時に力みすぎなんだよ。だから今回みたいに俺のフェイントに引っかかるんだ」


 「う~ん、分かってはいるんだけどね。やっぱり『ここだ!』って思った時は一気に行きたくなっちゃうって感じなのかな?」


 「この村の大体の相手ならそれで何とかなるだろうけど、実力が拮抗してる俺とか、ましてや父さんや母さんじゃ…ってなんだよ?」


 喋っている途中でリクは言葉を止める。ツバキが恨めしい眼でリクの事を見つめていた。


 「リクってさ、嫌味家なの?」


 「…は?なんでそうなるんだよ?」


 「え~、だってさ、この模擬戦の戦績で、私とリクの実力が拮抗してるだなんて本当に思ってるのかな~?」


 ニヤニヤしながら言葉でリクを刺してくるツバキだが、それを聞いてもリクの表情は微動だにしない。まるで彼女が何を言っているのか理解できていないようだ。


 「何言ってるんだよ?この毎日やってる模擬戦だって、最初の内はツバキの方が勝ってたじゃないか」


 「…確かにそれは、そうだけどさ」


 煮え切らないような表情をするツバキにリクは言葉を続ける。


 「俺がツバキに勝てるようになったのは、ツバキの癖をある程度だけど、把握することができたからだよ。初見でお前に勝てる人なんて、俺らと同い年じゃ殆どいないんじゃないか?」


 それは事実だった、模擬戦を始めた当初、リクはツバキの勢いのある刀術をいなすことができず、連敗を重ねていた。それでも現在の所、彼が勝ち越しているのはあくまでも経験故である。仮に何も知らない剣士10人がツバキとリクと戦闘をした場合、彼女の方がより多くの剣士に勝てるだろう。


 「う~ん、それじゃあ、それも納得が……」


 「ん?どうした?」


 リクの言葉に納得しかけていたツバキだったが、言葉を止めて表情が固まる。そのまま固まった表情は笑顔へと変わるが、眼が笑っていない。


 「それってさ……私が単細胞だとでも言いたいのかな?リクは?」


 「え?……あ、いや、違う!!!」


 「やっぱり…リックて嫌味家?」


 「そういう事を言いたいんじゃなくて、お、俺は!」


 何と言えばいいのか、脳内をフル回転させて考えるリクだったが、笑い声が聞こえ、顔を上げるとツバキが大声で笑っていた。


 「あっはっはっは!……大丈夫だよ。それがリクの優しさ、なんだよね?」


 「い、いや、俺はただ思ったことを言おうと…」


 「まあ、ちょ~っと、不器用かもしれないけどね」


 困惑するリクを尻目にツバキは丘を下り、リクの方を振り返る。


 「それじゃあ、リク。また明日ね」


 「…あぁ、不意打ちはもう止めてくれよ?」


 「……てへっ」


 リクの言葉にツバキはウィンクをして家へと向かう。


 「俺は少し走ってから帰るか」


 リクは溜息をつきながら走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ