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胡蝶の夢

 木々が閑散と茂る林の中。

 粗末な槍を掲げる骸骨、熊より大きな人面蜘蛛、不気味にうごめく大ムカデ。

 まさに魑魅魍魎ちみもうりょう、それらが数百体、群れを成して自分たちに向かってきていた。


 周囲は暗く、夜のようだ。

 しかし上空を見上げると、そこには確かに太陽があった……ただし、見えるのは輪郭から放たれる光の揺らめきのみ。


 学校の授業で習い、テレビやネット動画でのみ見たことのある、皆既日食。

 しかし、その影が覆っているのは、おおよそ自分たちの周囲一キロメートルほどのみで、それより遠方は日の光が降り注いでいるようだ。


 切り取られた日光は、自分の右手の甲に取り付けられた小さな銅鏡に強力な霊力として宿っている。


闇払一煌やみはらいしいちのきらめき!」


 そう唱えながら右手を振ると、神器である銅鏡から強烈な閃光が放たれ、妖魔共を一瞬でなぎ払い、屠り尽くす。

 あまりの熱量に、周囲の木々が炎に包まれる。


 ……いや、一体のみ、倒しきれなかった魔物が存在する。

 子供ほどの大きさだった、禍々しい瘴気を放つそれは、みるみる大きくなり、人間の五倍はあろうかという魔神に変化した。


 その姿は、これも学校の授業で習った「鎧を纏った埴輪」を凶悪にしたようなもので、一部見えている皮膚の部分はどす黒い。


巌貫終閃いわつらぬきしついのひらめききわめ!」


 神器に集められた太陽の霊力を、一点集中、魔神の鎧、胸部に向かって放出する。

 力を使いすぎ、自分の意識も希薄となって体が揺れる。


「ヒミコ様、あとわずかで邪鬼王を倒せます!」

「もうすぐ、この国は救われますようぉ!」

 

 倒れそうな体を、姉妹のように育った側近の二人が支えてくれる。


「……そうじゃのう、もうあとほんのわずか……頼むぞ!」


 二人に体を預け、ただ敵を倒すことのみに全力を尽くす。

 そしてついに、神器の光を浴び続け、灼熱で真っ赤になっていた鎧がはじけ飛び、邪鬼王は膝を突いた。


「今じゃ、カケル!」

「承知!」


 その瞬間、後ろで控えていた凜々しい青年が飛び出し、宝剣を抜いて邪鬼王の眉間に深々と突き刺した。

 刹那、その魔神の額にヒビが入り、全身に広がっていき……やがて細かく砕け、爆散した。


 カケルと呼ばれた青年は、素早く宝剣を抜いて後方へと飛び退いており、巻き込まれることはなく無事着地していた。


 皆既日食状態も終了し、周囲が一気に明るくなった。

 これで終わった……皆、そう安堵した。


 しかし、爆散後の細かい破片から、黒い煙のような何かが漏れ出し、集まり、そして地の底へと潜っていった。


「いかん、あやつの魂が……光の届かぬ地の底へと逃げおおせられてしまう!」


 さらに追撃を繰り出そうとしたが、もはや手遅れだった。


「……ヒミコ様、実態を失った邪鬼王など、もはや恐れる存在ではありませぬ」


 側近の一人……ハルカがそう慰めてくれる。


「うむ……いや、数百年、あるいはそれ以上の時間を費やし、奴は実態を取り戻すやもしれぬ」


「それは、その時代の者ぉ……我々の子孫達に任せてはいかがでしょうかぁ。今は戦いに勝ったことを喜びましょうー!」 


 もう一人の側近、ソラミも、笑顔で今回の勝利をまずは称えてくれた。


「……そうじゃのう……しかし、妾は……」


 どうしても、気になってしまう……邪鬼王は、恐るべき執念の持ち主なのだ――。


 ――ふっと、日向子は目を覚ました。


「……夢?」


 ここは、病院の一室だ。

 姉の陽菜と、妹の空良がすやすやと眠っているのが分かった。


 今見たのは、夢だったのか……いや、あれば間違いなく現実にあった出来事だ。

 ならば実は、この令和で見ている風景こそが、今、千年以上前の、いわば平行世界で眠っているヒミコの夢なのではないか……。


 そんな堂々巡りの思案の中、前日の疲れがまだ残っており、強い眠気に襲われて、どっちでもいいか、と考え、日向子はまた眠りについたのだった。

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