転生魂との戦い
白い紙に、鉛筆で絵を描く。
イメージした抽象的なものが、具体化される一例だ。
もう少し複雑な例であれば、石や木材という素材を彫り込んで彫刻を作成するのもそれにあたる。
それらには、その行為に適した素材と道具、そして作品を作る者のセンスが要求される。
今、俺たちが実践しているのは、自分の周囲に『太陽光の結晶化による武器や防具の創造』を、イメージ通りに瞬時にこなすという、今まで考えもしなかったことだ。
だが、それができている。
「俺たち」と表現したのは、俺と魂を共有するもう一人の人格、「カケル」と、その能力を用いて戦っているためだ。
カケルが槍を創造し、高速で連撃してくる。
俺はそれを躱し、同様に作成した槍で反撃する。
見よう見まね……ではない。そもそも俺とカケルは同一の魂、彼にできることは俺にもできるのだ。
ただ、それを忘れていただけだ。
間合いが詰まる。
カケルの槍が、太刀に変化する。
瞬時に、俺も同様に変化させる。
そこで思い出す……いままで、この千二百年間、何度も生まれ変わり、何度も戦ってきたことを。
槍で、太刀で、時には銃剣で。
近接戦、太刀の鍔迫り合いから互いに弾けるように間合いを取ると、カケルは武器を銃に変化させた。
そんなこともできるのか、と俺は驚嘆し、そして瞬時に理解する。
放たれる弾丸の威力は、そこにどれだけの日の光のエネルギーを込めるかによって調整できる。
それは先ほどの槍や太刀も同様で、エネルギーを込めれば込めるほど切れ味や強度を調整できるが、神器の出力に限界はあるので無限に強くすることはできない。
身に纏う鎧の強度も同様。
鎧を捨て、エネルギーの全てを一発の弾丸に込めるという無茶もできるが、防御力がゼロになるそれは愚策だ。
その辺りの切り替えの速さ、瞬時の判断力が、俺よりカケルの方が一歩上手だ。
常に俺は攻撃を受け、激痛を与えられ続ける。
同じ魂を共有し、即座に考えていることを理解できるとはいえ、ほんの刹那、遅れを取ってしまうのだ。
その度にカケルから叱責を受ける。その隙が、現実世界では命取りになる、と。
ヒミコやハルカ、ソラミは、千二百年を一足飛びでこの時代にやってきた。
それに対し、カケルは千二百年という時を、常に戦いながら転生を繰り返し、過ごしてきた。
そして彼女達に追いついた……最終的に、「俺」となって。
そんな彼が、俺の肉体を完全に制御し、ヒミコ達を守ろうとするのは当然で、理解できる。
だが、それでも。
俺は、守ると決めて、そう約束した。
俺の視界の先、モノトーンの光景として、彼女達が一心に祈りを捧げる姿が目に入る。
そして思い出す……不安に震え、俺に抱きついてきた……あのときの日向子の涙を。
「どこを見ているっ!」
叱責と同時に、カケルの持つ銃剣から弾丸が放たれる。
俺はそれを、籠手部分に集中させたエネルギー障壁で弾いた。
さらに続けて、武器を自動小銃へと変化させる。
これはカケルの記憶にもない。俺が、アニメや動画サイトで得た知識で具現化させたものだ。
だが、イメージの世界ではそれが現実となり得る。
カケルが一瞬、驚愕の表情を浮かべた後、僅かに笑った。
俺は、鎧へのエネルギー供給を一時弱め、その分、弾丸の連続発射に全て注ぎ込んだ。
超高速放たれる黄金色の軌跡が連続してカケルを捕え、彼が纏う同色の鎧を弾き飛ばした。
「……そうか……お前があの娘を想う強さは、我の千二百年を……いや、それに上乗せされているのだな……」
膝を突いたカケルが、笑みを浮かべた。
同時に、疲れ果てた俺も、膝から崩れ落ちた。
「……おまえに託そう……現実ではほんの一瞬だったが、『日の光の結晶化』、そしてそれを用いた戦い方を知ったはずだ。そして一度だけとはいえ、我にダメージも与えた。あの一瞬、おまえの発想が、我を超えたのだ。ただ、ひとつ注意しろ。実際の戦いでは、『祠』から得られる力の総量には上限がある。神器の出力の上限も、だ。今みたいな強引な攻撃を繰り出せば、数十秒で尽きてしまうだろう……そしてもう一つ。これはおまえの望むことではないかも知れぬが……我は常におまえと共にある。それを忘れるな……」
もう一人の俺、カケルはそう言い残して、笑みを浮かべたまま目の前から消えた。