前世の記憶
「今のは、一体……」
自分自身、なぜそんなことができたのが訳が分からなかった。
「時の魂に刻み込まれた、紛れもない宝剣での戦いの記憶じゃ。発動してしまった以上、嫌でも徐々に思い出すことになるであろう」
前世ではカケルという名前であったという。
いや、あるいは、これまでに繰り返し転生してきたのかもしれない。
人は誰しもそうであるが、もし前世というものが本当にあったとしても、その記憶を持ってはいない。
だが、ふとした瞬間にいつか見た光景、記憶が蘇る時がある。
そんなはずはないのに。
俺は神職の両親を持つ。だから生まれ変わりや前世、そんなものに理解も興味もある方だ。
だが、今までそういう生まれ変わりがあろうがなかろうが、それは本質的に問題ではないと思っていた……その記憶がないからだ。
前世の記憶で苦しむことはないし、それを活用することもできない。
しかし、今俺が実際に起こした行動は紛れもなく、前世の記憶に基づいたものだ。そう直感できる。
「ヒミコ様と行動を共にし、日の光を結晶化し、数十種類の武器へとその姿を変化させ、数多の邪悪な敵を屠ってきた英雄。それがカケル様、あなたです」
俺が 、英雄?
日の光を結晶化?
にわかには信じられないことだし、今はもう消えてしまっているが、確かに俺は槍を手にしていた。
生まれ変わる前の自分は、こうやって戦いに明け暮れる日を送っていたかもしれないのだ。
「念のため周囲を警戒したが、今度こそ邪悪な気配は消えた。おそらく妾の光術で山犬の肉体が滅びる前に、魔物の類いが近くのイノシシに取り憑いたのじゃろう。山犬にもイノシシにも気の毒なことをが、そうしなければ我々が危なかった。カケル、いや、武流、もう一人の妾、日向子が動揺しておる。後は任せたぞ」
ヒミコはそう言うと、静かに目を閉じた。
次の瞬間、ガクンとその体が崩れ落ちそうになる。
慌てて俺は、彼女のその体を抱きしめて倒れることを防いだ。
すると、彼女の方からも俺に抱きついてきた。
「……訳がわからない……今まではただの幻想、と思って……そう願っていたのに……怖かった……武流、私もう色々、限界かも……」
その涙声は、日向子のそれに戻っていた。
そして両隣の、おそらく空良、陽菜さんに戻った二人も同じ思いだったのか、涙を流していた。
「大丈夫だ、日向子、俺がついている。俺が守る。空良、陽菜さんのことも」
「……うん、約束だよ……」
日向子はそう言うと、再び俺に強く抱きついて、しばらく泣き続けたのだった。