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冒険の始まり

 それぞれ指輪を身につけた三姉妹は、一旦家に帰ってさらに着替えをするという。

 その言葉に疑問を感じたのだが、日向子が


「武流もだよ! 山登りしやすい格好してきて! あと、標高が高いから長袖の上着と、念のため携帯用のレインコートも準備して。食料なんかは、まあ、途中のコンビニで買えばいいかな? あ、それらを入れるリュックも要るから!」


 と、訳の分からないことを言ってくる。


「山登り、標高が高いって……どこへ行くつもりだ?」


「昨日、私たちの別人格が話していたでしょう? 取り急ぎ剣山の山頂まで行くよ!」


「剣山? 二千メートル近くあるじゃないか! 今からって、もう10時半だぞ!」


「大丈夫よ。1400メートル付近まで車で行けて、そこからリフトに乗ったら1750メートルまで15分で行けるの。その後、初心者コースで一時間もかからずに山頂に到達できるわ」


 日向子をそうフォローするのは、過去に剣山に登ったことがあるという陽菜さんだ。

 途中まで車とリフトで、登りが実質200メートルちょっとなら、気軽に行けなくもないかもしれないが……。


「でも、昨日あんなことがあったばかりで、一泊とはいえ入院していたのに……」


「心配してくれてありがとう。でも、だからこそ急がないといけないの。私たちの別人格が、かなり焦ってる……もっとも、私も完全に信じてるかっていわれたら、そうじゃない。どちらかといえば、その『神器』なんてものはないとも思ってる……だから、それはそれでいいんじゃない?」


「……どういうことだ?」


 日向子の言っていることがよく分からない。


「つまり、別人格があるって確信している神器がなければ、すべては幻想だったってことよ。そうすれば、私たち元の状態に戻るかもしれない。それに、別人格達も困惑しているの、あまりの世界の変わりように……彼女たちの言う『邪鬼』とか『妖魔』とか、そんなものの気配が一切しないらしいの。だから、そういう『別の世界』に来てしまったんじゃないかって、ね」


 陽菜さんが笑顔で答える。

 つまり、彼女たちは早く白黒付けたいのだ、この奇妙な「もう一人の自分」達の存在意義に。

 さらに陽菜さんは続ける。


「もちろん、別人格側の主張が正しかったとしたら、余計に『神器』を入手しないといけないんだけどね……動画サイトにあのイベントの出来事がアップされてしまった以上、妖魔に狙われるかも、って心配してるの。どちらにせよ、今日は二人の記念日だってこともあるし……もうちょっと頑張って、もっと思い出作りましょ!」


 その言葉に、俺と日向子は思わず顔を見合わせる。

 彼女は真っ赤になっていたし、俺もまた顔が熱くなっているのが分かった。

 空良が冷やかし、日向子が怒って追いかけていた。


 まあ、これだけ元気があれば大丈夫か、と安心し、俺も少し冒険してみたい気持ちになっていた。


 一旦、お互いの家に帰宅。

 俺は元々自転車通学なのでレインコートは持っているし、リュックや長袖の服もすぐに準備できた。

 足下はスニーカーだが、ネットで見る限り剣山の初心者コースならこれで問題なさそうだ。


 彼女たちも事前に用意していたようで、すぐに着替えて出てきた。

 日向子はダークグリーンのストレッチパンツにトレッキングシューズ、グレーのチェックシャツに赤いフルーティージャケットを重ね着し、デイバックを背負っている。


 他の二人も、色違いで似たような格好だ。

 以前からキャンプ用に準備していたものだという。


 結構本格的で、なるほど、この格好でジュエリーショップには行けないな、と納得した。

そしてこの格好の日向子も、普段見慣れていないだけに新鮮で、すごく可愛く見える。

 右手の薬指に光る指輪も、俺にそう思わせた。


 そんなふうに俺が日向子に見入っている様子を、空良がニヤニヤしながら見ているのに気付き、軽く咳払いする。

 日向子も気付き、照れ笑いを浮かべていた。


 そして日向子さんの運転する車に乗り込み、剣山アタックに挑むのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 中学生の頃、剣山のリフトで帽子を落としたのは私です。
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