番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 四十四
私達は地面に降りた。ベレンはまず、荷車に積んでおいた箱をあけた。中からランプをだして明かりを灯すと、納められている剣や弓が鈍く光った。
「まず、俺が路上に閃光玉をしかけておく。踏みつけると派手な音と光をたてて破裂するから馬が暴れていうことを聞かなくなる」
ベレンが、箱からだした虹色の丸い玉を一つ手にして説明した。
「次に、俺とレクシャで護衛と御者を倒す。これは、クロスボウでやる。四丁あるから一人二丁ずつ使う。矢はたっぷりあるが、一の矢必中を期さねばならん」
次にベレンがだしたのは、まっすぐな木の台座に弓を十字型に交わるよう固定した武器だった。思ったより小さく、本体でも私の肘から指先くらいまでだった。矢は手首から人さし指の先くらい。
この武器は、矢をつがえた状態を手をはなしても固定できる。つまり、一丁はなったら次の一丁に持ちかえてはなつ。矢をつがえなおさなくていい。ふつうの弓矢でも使えるけど、クロスボウのほうが狙いをつけやすいし当てやすい。
伯爵の馬車には、いうまでもなく御者がいる。護衛ではないが、どうにかしないと逃げられる。結局はまとめて倒さねばならない。
「最後に、ラルコーが伯爵を倒す。ラルコーの分もふくめて、剣は三ふり用意した。ただし、鎧はなしだ。動きが鈍る」
相手が動揺した隙に、一気にかたをつけるのが肝要だった。しかし、一つだけ疑問があった。
「私はどうすればいいんでしょう?」
「荷車の番だ」
クロスボウの具合をたしかめながら、ベレンは答えた。
いまさら付け焼き刃な練習をしても意味がない。レクシャが仕事場で私達を殺し損なったのは、特製ドレスの力だけではなかった。彼女がラルコーを常に気にかけておかねばならなかったからでもあった。今回、私が足手まといになるのは許されない。
「わかりました」
素直に私は受けいれた。
「明かりがないと同士討ちにならないか?」
ラルコーが二つめの質問を投げかけた。
「俺とレクシャは木の陰から矢をはなつ。斬りこむときはお前一人だ」
計画がうまくいけば、たしかに一騎討ちになる。つまり同士討ちは心配しないでいい。
「御者はどっちがやる?」
三つめはレクシャ。
「俺がやろう。今夜は半月だ。いまから夜目を慣らしておけば問題ない」
「計画は順調かね」
いきなり声をかけられ、私達はものもいえないほど固まった。山裾の木と木のあいだから、一人の人間が右手を軽くかかげてやってくる。
「トリンジ殿!」
近衛騎士トリンジ。あいかわらず鎖かたびらにマント姿だ。剣も同じ。




