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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 四十三

 ギルモの火葬と同じ要領で、私達は荷車に乗った。


 ベレンが一人だけ馬上になり、手綱をとった。レクシャが伝えた方面にむけて出発する。


「伯爵は、護衛を三人連れている。たいした武装はしてない」


 がらがら回る車輪の音よりも、レクシャの説明はすっと耳に入ってきた。


「本人は貴族用の豪華な馬車を使っている。護衛はただの馬で、両脇とうしろを固めている。馬車が重くて速さはでてないから、国境で待ち伏せする時間はいくらでもある」

「護衛の戦意は高いでしょうか?」


 この四人の中では、はっきりいって私は論外になる。いくら特製ドレスを身につけていても限度があった。


「私とベレンですぐ解決できる。伯爵は弱いから悩まなくていい」


 レクシャが正確な事実を伝えているのは疑わない。にもかかわらず、ラルコーは自分の両腕を自分の胴体にまきつけてがたがた震えていた。私はまだしも、伯爵個人に恨みがあるのではないし……たぶん、誰も殺したことがないのだろう。


「ラルコー、大丈夫?」


 あえて私は口にした。


「む、武者ぶるいだ。俺にかまうな」

「お前の使う武器は、俺が貸してやる」


 ベレンが、背をむけたままラルコーに伝えた。


「あ、ありがとう」

「箱にあるが、まだ開けるなよ」

「わかった」


 それからは、ラルコーは吸いよせられたように箱を注目していた。


 彼の横顔を見ないようにしつつ、膝を抱えて座っているレクシャの心境は図りしられない。こうしているうちにも休息をとっているのだろうか。私は、宮殿を追放されるまではなに不自由ない生活だった。ひるがえって、レクシャはどんな仕うちを受けてきたのだろう。


 ラルコーが首尾を果たし、家名を復興させたらレクシャと結婚するのはいうまでもない。貴族たるもの、世継ぎを残すのも大事な義務だ。この国では貴族のご落胤も当事者がそれと認めれば名誉称号的に貴族とみなされる。一代限りで。もっとも、どのみちラルコーとレクシャの間に子ができれば子爵家を継ぐことになるから関係はない。


 私自身の兄弟姉妹も何人かはいる。端的にいってどうでもよかった。元々、宮殿でのしあがるために実家を利用していただけだし。全員がそれなりの年齢だし、身の振りかたは各自でどうにかするしかない。私はそうした。


 夕陽が地平線に沈みかけるとき、ベレンは馬をとめた。街道に人の気配はなく、最初はまばらだった木だちが濃く密になっている。このまま進めば国境の山に至る。関所はない。かわりに、恐ろしい化け物や山賊がうようよしている。

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