番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 四十一
火が消えてから、ベレンは火口と引きかえに金バサミと小さな箱をラルコーへ渡した。ラルコーは、左手の平に箱をのせつつ金バサミで遺骨を適当に砕いた。ついで、遺骨を箱に入れてふたをしめる。最後に、私達は各自でバケツを持った。川の水をくんで灰や周囲にかけ、完全に湿った地面にしておく。
一連が完結したときには、夕闇が迫っていた。
「傾注! 傾注!」
わめきながら通りを歩く人間がいる。街のおふれ役だ。貧民窟といえども、公に大事な発表はおふれ役が実際に内容を叫びながら伝えていく。
荷車に乗りかけた私の足が止まった。他のみんなも。
「傾注! 傾注! ボネス伯爵家、お取りつぶし! ボネス伯爵家、お取りつぶし! 当主マルカは国外追放処分! 当主マルカは国外追放処分! 罪状は領内統治不行き届き! 罪状は領内統治不行き届き! 当主以外は無罪! 当主以外は無罪!」
国王は機を見るに敏だ。家族にさえ公正に接することのできない人間が、領地をまともに治められるはずがないという筋道なのはもう知っている。
「レクシャ、手紙を……」
「もう書いてある」
私の言葉が、レクシャの台詞とそれによってもたらされた驚きで打ちけされた。
「なら、明日にでも郵便屋に頼むか」
ベレンは穏便かつ妥当な意見を述べた。
「矢文にして打ちこみたい。そうすれば、伯爵はすぐに動く。お金は使用人か誰かに任せて、とりあえず自分は先に国からでようとする」
みんなの中で特に無口なはずのレクシャが、ずばずばと大胆な計画を打ちあけた。
たしかに、時間をかけたら伯爵は処分した財産で護衛の兵隊を雇うかもしれない。身の落ち着き先をはっきりさせて保護されるかもしれない。一方で、追放処分になった人間には法がまともに適用されない……それは自分自身も体験ずみだ……から、先手をとって動かすように仕むけられるなら理想ではある。
「でも、あなたは面が割れているでしょう?」
私としては、現実的な心配を無視できなかった。
「今夜中にやる。どこを目的地にして出発したか、たしかめたらもどる」
「夕べも働きづめだったじゃないか。せめて、俺にやらせろよ」
ラルコーが気づかうと、レクシャは首を横にふった。
「ラルコーは伯爵と決闘しなくちゃいけないから、身体を休めて。ベレンとロネーゼなら、あなたをちゃんと助けてくれる」
レクシャは私の姉妹。ちゃんとした形で話をしたのはこれが初めてなのに、どこかで自分と似た雰囲気を感じてしまった。
「そういうことならラルコーの心配はいらんが……現に目論見どおりになったとして、合流のタイミングがずれたりしないのか?」




