番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 三十五
「子爵家はまだ取りつぶしになっていません。私が子爵令嬢を追放するようにしむけたのは伯爵の命令を受けたからということにして、伯爵と個人的に決闘すればいいです」
「自分の罪を自分の父になすりつけるのか!」
ラルコーは勇ましく私を糾弾した。
「そういう理屈でないとあなた達はここで死ぬ」
思いきり冷ややかに私は明言した。妥協できることとできないことがあり、私は譲らない。
「レクシャが認めるはずがないだろう! 自分の……」
「私ならかまいません」
ようやくレクシャがまともに口を開いた。思ったよりは落ちついていた。
「レクシャ、どうしてだ!」
ラルコーからすれば、理解しがたいだろう。
「とっくに気づいていました。私はただの捨て駒です。父は……いえ、伯爵はきれいごとならいくらでもならべましたが仕事に見あう報酬は一度もだしませんでした」
たんにケチというだけじゃない。へたに金をたくわえられると、自分に謀反をしかける元手に使われかねない。実の娘なら、愛情をちらつかせて支配したほうが一石二鳥とでも判断したのだろう。
「あなたとの約束も、どうせ反古にされると知っていました」
淡々と、レクシャは語った。
「なんだと?」
「ロネーゼを始末したら、口封じにあなたも殺すよう命令されるのは当然の流れだからです」
ラルコーの、純粋で汚れを知らなかった志が音をたてて崩れていく気がした。
「それでも、私はあなたを愛しています。だからせめて……」
「その先はいわなくていい」
姉だか妹だかの告白を、私は押しとどめた。
「で、どうするんだ。俺達に協力するのかしないのか」
「するよ」
ぼそっとラルコーは答えた。死にたくなければそうするしかない。
「なら、段どりをはっきりさせねばならない。あと、すまんがお前らを無条件には信用できん」
「じゃあどうするんだよ」
「レクシャ。お前はラルコーの家にいき、家宝を盗んでこい。一つでいい。ただし、今晩中にだ。ラルコーはここであずかっておく」
息子が殺し屋とつるんでいた挙げ句に家宝まで盗まれたとあっては、世間沙汰になれば子爵家の面目は再起不能だ。
「盗んだ家宝は俺達であずかる。俺達への協力がすんだら全部自由にしてやるよ。断っておくが、今晩中に帰らなかったりお前以外の人間がついてきたりしたらラルコーを殺す」
「わかった」
レクシャが受けいれると、ベレンは剣で彼女の手足を縛っていた紐を切った。
「いけ」
ベレンに命じられ、レクシャは振りかえらずに玄関のドアを開けた。




