番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 三十四
ただ、父がベレンをたいして意識してないのも逆説的にはっきりした。
「子爵家の人間がなぜ伯爵の内輪もめに加担する?」
「姉上の死で子爵家は没落がはっきりした。伯爵から、ロネーゼを殺せば家名の復興に協力してやるといわれた」
あーあ。そんな口約束、実行されるはずがないのに。やっぱり世間知らずの坊っちゃんね。
でも、二か月前までは私も似たような世間知らずだった。いや、自分の陰謀に溺れてさえいた。それを客観的に反省できたのは、むろんベレンの元で様々な修行を積んだからだ。それに。殺しにきたのは許せない一方で、家のために手を汚してでも命を賭ける心情は理解できる。
「レクシャはどうみても殺し屋だろう。なぜ侍女をやってる」
「侍女は仮の姿で、本業が殺し屋だ」
「それだけじゃないでしょう」
私は、ある種の確信をえていた。だから口をはさんだ。
「あなた達、愛しあってるのね」
「……」
一同が沈黙した。
「おい、どうなんだ」
「……そうだ」
ここで私は、鏡ごしにレクシャの顔をみた。たったいままで無言無表情な彼女が、はじめて屈辱に表情を歪めている。こんな形で大事な秘密を暴かれたら、まともな人間なら誰しもそうなるだろう。つまり、最終的にはレクシャは殺し屋として失格となる。
ある意味で、ラルコーとレクシャはベレンと私の陰影だった。私達はかろうじて成功した。逆になっていてもおかしくなかった。
「レクシャは、伯爵の私生児なんだ」
「えええーっ!」
これが驚かずにいられるか。じゃあ、なに。この人私の腹違いの姉だか妹だかになるの。
貴族ならふつうにあるお話だけど……いざ直面すると……ましてこんななりゆきで……。
「母親も伯爵の侍女だった。もう病気で死んだ。レクシャはほかに身よりがないから伯爵のもとで働くほかなかった。伯爵は、彼女をただの侍女にはしなかった」
それで暗殺者に。父親にたいするなんともいえない気持ちを抱えながら、命じられるままにせっせと人殺しにはげんだと。
ラルコーがどんなきっかけでレクシャと知りあったのか、知っておきたくはあった。知ったところでどうにもならないというのも理解していた。
「ロネーゼ、お前はこいつらをどうしたい」
ベレンの問いかけは、ラルコー達の運命がそろそろきまるのを意味していた。
「私達に協力するなら、ラルコーが家名を復興するのに手を貸したいです」
「どうやって?」
ベレンでなくとも、ただの平民になった私にそんな力があるとは思えない。




