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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 三十ニ

 二人目は、体格といい身長といい男のようだ。こちらも覆面で、顔はわからない。


 もっとも、だいたい想像がつく。『虹を担ぐニイニイゼミ』亭で失敗した連中だろう。


 毒を使った不意討ちは、解毒剤がまだ効いているから意味がない。そもそも一度失敗した手はベレンのような人間にはもう使えない。だから、あくまで物理的にやるしかない。


 じりじりと、二人組は間合いを詰めた。ベレンはゆっくりあとずさって壁に近づきつつ、二人の腕を検分している。


 ベレンのかかとが壁にふれかけた。刺客のほうを向いたまま、彼はまうしろに飛びのいて壁を蹴った。あわてて腕をふりあげる二人組の頭上でベレンは身体を一回転させ、男の刺客の左肩を斬り裂いた。


「ぐわぁっ!」


 悲鳴をあげ、短剣を持ったままの右手で傷口をかばいながらうずくまる男の頭を蹴ってふたたびベレンは宙に浮いた。その直後、たった今までベレンの顔があった空間をもう一人の短剣が虚しくよぎった。空ぶりでたたらを踏んだもう一人の右手首に、ベレンは着地ざま剣を振りおろした。


「ぎゃあああっ!」


 女の声で悲鳴があがり、床に落ちた短剣がからからと転がる。間髪をいれず、ベレンは蹴とばして刺客からはなした。


 頭を蹴られた刺客は、血だまりを広げながら床にのびている。女の刺客は、手を斬り落とされるほどの負傷ではないものの逃げるか降参するしかない。


「両手をあげて壁まで下がれ。さもなくば相棒を殺す」


 剣のきっさきをつきつけて、ベレンは女の刺客に命じた。彼女はだまってそのとおりにした。


「倒れている奴を縛れ。手足ともだ」


 これは私への命令。仕事場なので、丈夫な紐はいくらでもある。すぐに実行した。


「よし。おい、床にうつぶせになれ」


 ベレンは女の姿勢をかえさせた。そのうえで、私にあごをしゃくる。女の傷口をじかにしめあげることになるものの、ためらう筋あいはなかった。


 こうして、二人組はあえなく拘束された。


「ちょっと二階にいってくる。すぐもどる。こいつらを見張ってろ」

「はい」


 ベレンは剣を軽く振って血を飛ばし、鞘に収めた。それから二階にいき、透明なガラスビンを手にしてもどってきた。剣は鞘のままベルトに吊っている。


 ビンの栓をあけたベレンは、二人の傷口にそれぞれかけた。たちまち血がとまり、内側から肉や皮膚が盛りあがって元どおりになった。二人とも身動きとれないままなのは変わらないけど。


「手鏡はあるか?」


 女の刺客の脇腹近くにたって、ベレンは私に聞いた。


「はい」


 ホテルの売店で買った。


「よし。女の顔がみえるように、床に置け。女の前に直接たつなよ」

「わかりました」


 これは、女の正面にいるのを避けるための用心だ。毒はともかく含み針のような武器もある。

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