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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 三十一

 まあ、おいおい知る機会もあるだろう。いまは、身の安全を確保しないと。


 思ったよりはやく、馬車はとまった。


 私達がブロンゾと賭けをした賭博場にある馬留めだ。なるほど、こんな目だつ場所で襲われる可能性は高くないだろう。貴族がきてもおかしくはない格式のお店だし。


 私達のお礼もそこそこに、馬車はそのまま去った。


 ベレンはすでに仮面をつけていた。私はそのままだった。もう真夜中で、さすがに人は多くないのはともかく。


 誰からもじーっと注目されるのはいろいろな意味でとてもやりにくい。貴族の馬車からでてきて仮面の男にかしづかれる、飾りたてたお嬢さん。無視されるはずがない。まして、賭博場にいくならともかく馬留めから馬をだしてそのまま去るのだから。


 だからといって、いまさらあともどりはできない。ベレンは無言で馬をひき、私は無言でうしろにのった。


 日付がかわる前に、私達は貧民窟の仕事場に帰った。この臭い、靴底の感触、肌にまとわりつく湿っぽい空気。なにからなにまでいつもどおりだ。


「さすがに、今夜は寝よう。もともとこういう地域だし、これでも戸締まりはしっかりしているほうだ」


 ドアをあけながら、ベレンは請けおった。


「はい」


 正直なところ、私も疲れきっている。


 ドアをくぐり、ベレンは鍵をかけた。荷物はめいめいが引きとり、私は自分のベッド代わりにしている箱の中へ。ベレンは二階の部屋へ。


「おやすみ」

「おやすみなさい、師匠」


 洗面所で、メイクを落として肌と髪の手いれをせねばならない。だから、私が寝るのはすこしあとになる。


 ベレンが二階にあがり、さっそく洗面所にはいった。ホテルで買ってきた道具をだして、鏡にむかいあう。


 どこかで見た姿が、自分とは別に鏡に写っていた。振りかえるひまもなくナイフが背中につきたてられた。しかし、刃先はまるでドレスに通用しない。


 私よりも、刺した側が仰天している。その隙に、私は上半身をひねってメイク道具を投げつけた。


 覆面姿の、小柄な人間が手で顔をかばった。即座に洗面所からでようとして、正面から二人目がナイフを突きだしてくる。刺されたと思った瞬間、身体が勝手に動いてひょいとかわした。


 ビヨット衣料品店の仕事は完璧だ! ようやく私は思いだした。


「ベレンーっ!」


 わざとではなく、素で私は叫んだ。階段を飛び降りるようにして、上半身裸のベレンが抜き身の剣を手にやってきた。


 ただ、私では戦力にならない。ニ対一では分がわるい。得物は師匠のほうが有利ではある。

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