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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 二十八

 国王が深く自分で自分に問いかける姿には、共感と警戒が同時にわいてきた。


 国王も人の親だ。自分の息子をどうにか許したい気もちはあるだろう。そういうポーズをしているだけだとする捉えかたもある。でも、陰謀というのは多く人の感情を刺激しておこなわれる。結果として私の主張が国王の感情をゆさぶっているのは明らかだった。


 問題は、ゆさぶりすぎになることだ。一周まわってやっぱり私達の口封じをしようという結論になったらおしまいだ。こればかりは、国王の胸先三寸にかかっている。


 騎士達の反応から、ある程度まで国王の感情を読みとることはできる。国王は自分の膝と床のほうに顔をむけているし、ちらっと視線をかえられなくはない。


 だが、できない。わずかでも集中をとぎらせるのは許されない。私が国王に注目しているのも、国王からすれば立派に圧力になる。けっして口にはしないにしても。


「ロネーゼの提案は、まことに熟慮すべきである」


 拳から顔をはなして、国王は評価した。


「さりながら、予の家庭について部外者を交えた議論は難しい。ならば、ここで決断せねばならぬ」


 固唾を飲むとはこのことだ。


「ロネーゼの提案をとる。一度王子自らが破談にした婚約を、いまさらもどすのは不自然である」


 不問に付すという寛大さを国王がもたらした。それより大きな利を王子が求めるのは不敬となる。すなわち国王の慈悲と威厳を国民に知らしめることになる。


「まことに恐れいります」


 同時に、王子は自分が追放した人間……すなわち私の言葉で命を救われた。生きているかぎりずっとつきまとう事実だ。仮に王子がなんとも思ってなくともほかの人々は気にかける。負の方向で。まさに精神の牢獄だ。私にあたえた屈辱を、一生のあいだそっくり引きうけねばならない。まだだ。まだ一つある。


「さて。最後に、ロネーゼの実家であるボネス伯爵家について裁定せねばならぬ」


 これだ! ある意味第三王子なんかより重大。


「伯爵家の当主は、つまりロネーゼの実父は病気と称して出仕しなくなっておる」


 よくある手だ。


「ロネーゼもまた偽聖女による陰謀の被害を受けた。仔細を吟味せぬまま一方的にそなたを追放したのは、領地を治める人間としての自覚に欠ける」


 だから自発的に謹慎して国王の反応をたしかめているつもりなのだろう。愚かな父だ。聖女が偽者だとはっきりした時点で、国王よりもはやく私を保護すべきだった。私が応じたかどうかは別として、父が娘と和解したくて使いをだすのはなんの問題もない。

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