番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 二十四
ビスク鉄橋のたもとにくると、夕闇が深まりはじめた。
トリンジは、道路の脇で私達をまっていた。馬にのったまま。彼のすぐうしろには二頭だての馬車があり、一人の御者が出発をまっている。
馬車は車輪が四つあり、屋根もあれば窓のついた壁もある。窓の内側にはカーテンがしめてあった。車体には青くゆるやかな唐草風の渦がはめてあった。宮殿を出入りする貴族が使うものだ。
「かなり頑丈なバネがついているな。乗り物酔いはしなくてすみそうだ」
ベレンが目ざとく教えてくれた。
「ようこそ。宮殿まで貴殿らを護衛すれば、私の役は終わりだ」
トリンジは馬上から声をかけた。
「お役目いたみいる。ご厄介になる」
お礼を述べてから、ベレンは馬車のドアをあけた。
「先にはいれ」
「恐れいります。トリンジ殿、よろしくお願いいたします」
私はまず二人にお辞儀した。それから馬車にのった。私が席をつめると、ベレンがすぐ隣に座った。剣がじゃまなので、ベルトから外していた。
御者が馬の背中をびしっと手綱で打つ音が、壁ごしに聞こえた。三頭の馬が路面を蹴る音も。
車輪がきしみながらまわりだした。二か月前とは真反対の方向へ、馬車が動きだした。
「謁見では、第三王子をどうするのか……いや、どうしたいのかが話になる」
前置き省略で、ベレンは本題に切りこんだ。馬蹄が響くさなかで、御者にもトリンジにもわからないから自由に会話できる。
「はい。個人的にはもう一つあると思います」
「もう一つ?」
「私の実家です」
さすがに、それだけではベレンにはわからない。
「私の勘当をどうするのかもきめねばなりません」
「そりゃあくまでお前の家の話だろう?」
「下級貴族ならそうですが、私の実家は宮殿につながりがあります。それに、いっときにせよ私は王子殿下の婚約者でした」
「なら、むしろそっちが大きいかもな」
ベレンは右手で剣の柄を握りつつ、左手で自分のあごをさすった。
「はい。やるならそのあとです」
やる、というのが私達の殺害なのは説明するまでもなかった。
「毒は心配ないとして……刃物か、魔法か」
「魔法使いや錬金術師を見たことはないです。陛下がそれほど好まれないからです」
「なら刃物になるか」
「はい。その気になれば大勢で囲んでめった刺しにでもします」
必要な会話なのはしかたない。いつもながら、ロマンスもへったくれもない。
「それでもお前は俺を守るのか?」
「はい」
「どうやって?」
「裸をさらしてでも」
本気だった。




