ニ、救世主!? でも庶民よりひどい生活環境ですわ! 一
「あのう、もし……」
勇気をふるって、私は声をかけた。
「なんだ?」
剣を収めながら、男は応じた。
「私、じつは身よりがなくて……頼れる殿方と相談したいことがございますの」
身も蓋もないとはこのことか。とにかく自尊心や羞恥心にかまっていられない。
「街の救貧院にでもいけ」
「救貧院?」
「知らんのか。聖女リオクが寄付金を募って建てたんだぞ」
そっけない返事もさることながら、聖女リオク!
「ま、街まではとても歩いていけませんわ。道もわかりませんし」
「じゃあ知らん」
男は私に背をむけた。
「つまらない剣ですこと」
八つ当たりは百も承知で、私は聞こえよがしにいった。
「なんだと?」
男は足をとめ、私にむきなおった。濃くなる夕闇のなかで、へたないいのがれは一切許さないといわんばかりの顔つきになっていた。
「刃の厚さは微妙にずれてますし、柄はバランスが悪いですし、だいいち切っ先が歪んでいますわ」
あながちでたらめではない。見たまま正直だ。そういえば、宮殿では思ったとおりのことを口にだせる機会はあまりなかった。
私をにらみつけながら、男は剣をぬいた。口がすぎたかと思い、私は身体を縮めた。
「お前、刀鍛冶でもやっているのか?」
自らぬいた剣をためつすがめつしながら、男は聞いてきた。
「いいえ」
「これまで何本の剣を目にした?」
「抜き身でなら、これが初めてでございます」
「初めて!?」
剣から私へ、男は視線を移した。気圧された私は思わず一歩さがった。
「きゃあああっ!」
断崖絶壁なのを忘れていた。足を踏みはずし、私は川までまっさかさま……となる直前、剣を放りだして駈けよった男に腕をつかまれた。
「このバカ! さっさとあがれ!」
「は、はいっ!」
男は、私を抱きかかえるような格好で地面までもどしてくれた。そこでバランスを崩した。
「うわっ!」
うしろむきに彼は倒れた。私を抱えたまま。地面のうえだから落ちはしない。ただ……その……他人から見られたら誤解されるというか……。しかも私が上……。
「ごごご、ごめんあそばせ! わわわ、わざとじゃありませんから!」
「はやく……どいてくれ……」
「は、はい」
全身真っ赤になって、私は男からどいた。父以外の男に抱かれたのは生まれて初めてだった。
「まったく、こっちが死ぬところだったぞ」
「おかげさまで助かりましたわ」
皮肉っぽく聞こえたかもしれないが、男は黙って剣をひろい、改めて鞘にいれた。
「俺の職場まできて、仕事を手伝うならしばらく面倒をみてやってもいい。報酬もだしてやる」
真顔で男はいった。赤くなった私の肌も元にもどった。
「どんなお仕事ですの?」
「武器の目利きだ」
「武器って……剣とか槍とかの……」
「そうだ。いやか?」
「い、い、いえっ。よろしくお願いしますわ。あと、私はロネーゼと申します」
「ベレンだ。なら、ついてこい」
「はい」
ベレンはすたすた歩きだした。