番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 二十二
ベレンは、仮面を上にずらして口だけだした。私から受けとった解毒剤を口に含み、飲みこむ。なにか……素顔でそうするより……いろいろとたくましくなる……。たとえばあの状態で抱かれてキスされて、私が仮面をはいだら目を閉じてるベレンの素顔が……ああっ、妄想! 妄想がはかどる!
「どうした? お前は飲まないのか?」
ベレンは仮面をもどした。
「い、いえっ、すみません」
あわてて私も飲んだ。無色無味無臭。
用事がすんで、ふたたび表どおりにきた。
「いい忘れたが、馬は別個にあずけてある。どのみち馬車にのるしな。待ちあわせ場所までふくめても、そんなに長くない」
「わかりました」
どのみち馬の二人のりよりは歩くほうが目だたない。
私も忘れていた。こういうときは日傘がほしい。まだ西陽は少し強いし、さりげなく相合傘ができるし。
図らずも、街をぶらぶら二人で歩くのはできた。デートじゃないけど。手もつないでないし。
ビヨット衣料品店が視野にはいって、うわついた気持ちとお別れせねばならなくなった。ここからは、殿方の決闘やいくさとかわらない。
「こんにちは」
ベレンが先に店の敷居をまたいだ。私もすぐに続いた。
「ようこそ、いらっしゃいませ。ちょうどできたところですよ」
満面の笑みを浮かべるビヨットさんは、疲れきってもいた。無茶な依頼だったし。もちろん、お金はたっぷりだす。
「どうぞ、こちらへ」
いつもの応接室へいくと、ビヨットさんは私達が座るや否やまず『閉店』の札をだしに一度席を外した。それからお茶をだしてくれた。
「少々お待ちくださいませ」
お盆を小脇にしたビヨットさんは、お辞儀してまた席を外した。
「お待たせしました」
車輪つきの台座に据えられた、白い人間型の木像……首はなく、両腕も肘までしかない……に私のドレスがあった。
あらゆる傷が完璧に修復されているのはもちろん、伯爵家をしめす一角獣の刺しゅうはそのまま……じゃない? 一角獣を手まねきする愛らしい少女が加わっている。さらに、光のあたり具合では金色の波のようなものが右肩から左胸にかけて薄く現れた。目を刺激するようなものではなく、あくまで一角獣と少女をひきたてるようになっている。
「元々の材料になっている絹糸は特別なカイコからできたもので、それはこちらでどうにかしました」
ビヨットさんは、ドレスそのものにはさわらないよう注意しながら木像を回した。
「背中と両肩と両脇にはさらに、鋼なみの強度を誇る糸を組みこんであります。刺されようが斬られようがびくともしませんよ。手袋も別途ご用意できておりまして、指以外はこれらと同じようにしてあります」
あまりの仕事ぶりに声もでない。




