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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 二十

 机を片づけて少しすると、呼び鈴が鳴った。


「はい」


 ドアの前まできて覗き窓からたしかめると、右手に大きな箱を持った中年の女性だった。薄茶色のエプロンを身につけている。


「失礼します、ホテルからお呼びがかかって伺いました。美容師のポンテと申します」

「お待ちしていました。今開けます」


 ドアを開けると、ポンテさんは丁寧にお辞儀した。


「はじめまして。ご利用ありがとうございます」

「まあ、ご丁寧に。さあ、入ってください。あ、お風呂はたったいますませましたから」


 そこからは、ポンテさんの音頭ですみやかに仕事が進んだ。彼女は一言断わってから持参した箱をテーブルに置いて商売道具をだした。私は壁にかかった鏡を眺めていればよかった。


「とても美しいおぐしでございますね。どのようにしましょうか?」

「はい、宮廷の一番新しい流行に合わせてくださいな」

「えぇっ? よろしいのですか?」


 庶民が貴族の真似事をすると、場合によっては罰をうける。


「もちろん、かまいませんわ。細かいことはお話できませんが……私、とある貴族の出身ですの」


 嘘ではない。


「そうだったんですか。これは、知らなかったこととはいえ大変失礼しました。では、そのように致します」

「はい、お願いします」


 二か月もすれば、流行はすっかりかわっている。これから少しずつ寒くなっていくのもかかわる。


「宮廷と申しましょうか、この前の剣闘士試合はすごかったですね」


 私の髪に蒸しタオルを当てながら、ポンテさんは喋りだした。理容院でも美容院でも、こうした世間話はふつうにある。うのみにするつもりはまったくない。ただ、世間の関心を知るにはうってつけだ。私が美容師を呼んだのはその意味でも目的があった。


「私はよく知らないのですが、誰が優勝したんですか?」

「ベ……レ……レンチだかレンチンだかっていう人らしいですよ」


 ベレン、お気の毒。


「じゃあ、大金持ちになったんじゃありませんか?」

「いえ、それが……主催者の王子様にお目どおりがかなったとき、王子様におつきだった聖女がどこからともなく剣をぬいてところがまわず斬りつけたんです」

「はぁっ!?」


 素で変な声がでた。そのあいだにも髪のセットは着々と形になっていった。


「自分の耳を疑いますよね。王子様は、なぜか軍隊を呼んでくるとかいって闘技場からでてしまいましたし。それを収拾したのがベンチなんですよ」


 ベンチじゃない。


「ベンツが聖女をとりおさえて、身柄を拘束しようとしたんです。そうしたら、決勝戦でベチンに負けたブロンゾがベンベンを逆恨みして……」


 天井にむけてつきでるような、トウモロコシを半分に切った感じのスタイルに髪がまとまっていく。

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