番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 十五
あれほどすったもんだしたわりには、『虹を担ぐニイニイゼミ』亭からあっさりでられた。お金を前払いしていたし、取りかえしがつかないほど備品が壊れたり汚れたりしたのではないから。ほかのお客さんも知らん顔だった。
「重いだろうが、馬に乗ったら持っていてくれ」
玄関をでてから、ベレンは金貨の袋について頼んできた。
「はい」
ベレンはまだ袋を持ったまま馬小屋にいき、袋を小脇にしたまま馬を引いてきた。
「トリンジ殿の馬は?」
ベレンは左右を見わたした。
「少しはなれた場所につないである。すぐに追いつくので、先にいかれよ」
「わかった」
ベレンは袋ごと馬に乗った。それから私を引っぱりあげた。あいかわらず私は横座りだ。さらに、袋をあずかった。
ずっしりした重みに、思わず悲鳴がでかかる。腰やお尻にまた負担が……。
手綱を軽くふって、ベレンが馬の首を打った。馬はぽこぽこ進みはじめた。
きた道を帰るだけだし、どうという距離じゃない。私がすがりつけるのはその事実だけだ。
歯をくいしばって耐えていると、トリンジが追いついた。
「お待たせした」
「ああ」
「失礼ながら、おつれが相当辛そうだ。休憩にしたらどうだ?」
トリンジの思いやりがとてもうれしかった。夕べも完全に休めたのではないし。宮殿につくまでになにかあっては困るから口にしたのにせよ、ありがたいのにかわりはない。
「そうだな」
ベレンは馬をとめた。
「ちょうど、目の前に雑貨屋がある。俺がいってくるから袋を見はっていてくれ」
街からのびる道ぞいには、昨日ご飯を買ったような食べ物屋さんもあればちょっとした日用品を売る小さなお店もあった。街からほどほどにへだたった、それでいて一定の人どおりが見こめる場所はなかなかに手堅い商売を期待できる。
とにかく、買い物のあいだは私も降りていていい。
「わかりました」
座るのはたつより楽なはずだ。にもかかわらず、いまは地面で膝と腰をのばせることがなによりありがたい。
袋から金貨をいくつかだして、ベレンはお店にいった。私は袋を馬の背にのせたまま降りた。
軽く上半身を左右にひねって腰をほぐしていると、ベレンが買い物をすませて帰ってきた。長くて幅広なベルトを一つと、頑丈そうな紐が縛り口についた革袋を二つまとめて左手に持っている。ベルトはズボンをとめるような品ではなかった。はるかに大きい。
「金貨をこの革袋にわけていれなおすんだ。で、ベルトを馬に固定してから両側に吊るす」
ああ、これで袋から解放される。でも、私用の鞍や帯はなかった。そういうとこだぞ、師匠。




