番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 十四
「どうしておどろくんですか?」
「い、いや……」
「ロネーゼ殿が、ひょっとしたら宮廷に返り咲けるかもしれない好機なのだぞ」
やっぱり年長者なだけあって、堅物は堅物でもトリンジは世間智に長けている。
「うむー、そうか。いや、よく考えたら格式のあるホテルであれば暗殺者もやってきにくいな」
そう。私とベレンは、少なくとも今晩の謁見がおわるまでは可能なかぎりいっしょにいないといけない。
「ロネーゼ殿はホテルで時間までいればよかろう。ベレン殿は、もし外で用事があるなら私が同席しよう」
「王命なのは理解するし、要するに監視なのもいまさらごまかせまい。だが、トリンジ殿はなぜそこまでこだわるのだ?」
「多くは語れぬ。私は近衛騎士とだけ申しておこう」
つまり、あのまぬけな第三王子で陛下はいたくご心痛ということだ。ひょっとしたら、聖女が偽者ではないかという疑惑くらいは以前からあったかもしれない。
「心えた。ならば、ここをでてホテルを探しにいこう」
善は急げといわんばかりに、ベレンは金貨を袋に詰めなおしはじめた。
「師匠、その前に。もどるなら私の仮面をつけてください」
仮面そのものはけっこう大きめに作ってあるから、サイズの心配はない。
「たしかに、あれほど目だったあとだと素顔はまずいな。だが、お前はどうする」
「優勝したのは師匠ですから、注目は師匠に集中しています。私の顔まで覚えている人はそういません」
「なるほど。なら、よかろう」
ベレンはせっせとお金をかきいれだした。
「あと、寄っておきたいお店があります」
「なんだ?」
「ビヨットさんのお店です。この服、貸衣装ですし。お世話になったお礼もしないと」
「そりゃあそうだがいまの立場で訪れたら迷惑になりかねんぞ」
「あら、それなら大丈夫です」
「どうして?」
「トリンジ殿が私達の身元を保証してくださいますから」
「はぁっ!?」
素でベレンは金貨をベッドに落とした。
「私達は陛下の賓客なのでしょう?」
必ずしもそうじゃないのは百も承知。でも、こちらからそう持ちかけられていやとはいいにくいだろう。トリンジのような性格の持ち主なら。
「賓客かどうかは知らぬが、会わねばならないのは事実だ」
トリンジは正確に回答した。
「ほら、こう仰ってますし」
「いや、トリンジ殿は知らぬと答えただろう」
「ちがうとも答えてませんから。なにもこちらから賓客と名のる必要はありませんよ」
「なに?」
「トリンジ殿に、ビヨットさんに一言ご挨拶いただけたらいいんです。困っている人を助けるのも騎士の役目ですよね?」
ビヨットでなくとも、勝手に賓客と判断してくれるだろう。
「……」
殿方二人はあきれてだまりこんだ。
「さあ、時間がもったいないですよ」
私がとどめを刺すと、ベレンはだまって金貨の袋を肩にかついだ。私はまっさきにドアを開けて、ベレンとトリンジを廊下にとおす。
どうせ命賭けの謁見をするなら、楽しまなくちゃ。まさに『適応力』だ。




