番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 十一
問題は、誰が何番目に寝るかだった。
正直なところ、トリンジとはいっしょに起きていたくない。
「トリンジ殿、我々はある程度まで休んだのだし先に寝られてはいかがか」
ベレンの勧めには飾りけがなかった。
「ご配慮かたじけない。時間がくればよろしく申しあげる」
トリンジはあっさり承諾し、マントごと鎖かたびらを脱いでベッドに横たわった。剣だけは、ベレンと同じくかかえたままだった。すぐにいびきをかきはじめる。
「どんな神経なんでしょう?」
ベレンでさえここまで無頓着じゃない。
「いや、さすがの猛者だ」
「え? どうしてそう判断できるんですか?」
「こちらを信用していることを示しているし、寝られるときに寝るのは野外任務での基本だ。あと、俺達にさっきの襲撃を話しあう機会もくれたんだ」
そんなことは思いつきもしなかった。言葉もない。ベレンは冒険者だったぶん、世間を私よりはるかによく知っていた。
「で、ギルモの実家はそうとうお前をうらんでいるようだな」
ベレンの言葉に嫌味や不快はない。心配もそれほどしていないようだ。弟子入りする前に包み隠さず身の上を語ったおかげで話が早い。
本当は、ちょっとは心配してほしい。
「はい。ご迷惑をおかけしました……ですが、子爵家全体でおこなわれた行為とは思えません」
「何故だ」
「何番目の息子かわかりませんが、当主の直系がやるようなことではありませんから」
基本的に、貴族は他人を動かす。
「なら、金で雇われたとかいう女が怪しいな」
「はい。口からでまかせという可能性もあります」
「本当に冒険者かどうかは、賞金がくればすぐに調べられる。ただの金めあてなら、貴族のぼっちゃんが仇討ちごっこをしたということだ」
仇討ちごっこにしては、よく練られた計画だったと素人の私でも思う。ベレンの寝相が悪かったからこそ……。ぷぷっ。
「なにがおかしいんだ?」
「え? い、いえ……まぬけな殺し屋ですよね」
危ういところでごまかした。
「一度退けたからといって、油断はできないぞ。とにかく、賞金はすぐにでも支払われるだろう。だが、金めあてでないとしたら……」
「ないとしたら?」
「お前をうらんでいる人間の数が、少なくとも倍はふえたことになるな」
「……」
グウの音もでなかった。
それからしばらくして、交代になった。
「ロネーゼ、お前が休め。俺はトリンジ殿と話しておきたいことがある」
「わかりました」
こういうときは素直に聞いたほうがいい。必要があればあとで教えてくれるだろう。




