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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 十

 まだ涙はとまらないものの、頭もはっきりしてくる。


「それで、ご説明をいただきたいです」


 ご亭主は辛抱強く待っていた。


「俺から……話そう」


 ベレンが買ってでて、おおざっぱないきさつを知らせた。もちろん、殺し屋の細かい動機は伏せてある。要約すれば、さっきの二人組は宿屋荒らしの常習で衛兵のトリンジに追われている。で、私達は善意の被害者ということになった。


「まあ、それは難儀でございました。自分で申しますのもおこがましいですが、当宿の鍵はちょっとした手だてがあれば外からでも開けられます。ここでそれをご説明はできませんが」


 宿屋さんには責任はない。むしろ被害者だろう。この類に泊まるからには一定の用心がいることくらい、私にもとうに察しはついていた。


 他の宿泊客が騒ぎだす気配もなかった。自分達にかかわらないかぎり、明日に備えて寝るのが妥当だからだ。


「貴殿らはどうする?」

「二度も三度も同じ手で襲ってはこないだろう。なら、引きつづきここにいる」


 ベレンの判断は、私の意見を待たずにきめられた。私が口だしする理由もなく、あっさり固まった。


「ならば、私も夜明けまではここにいる。むろん、金は払う」

「はい、それはもう払うものさえ頂戴できれば。ただその、ああいったたち回りがあったとなりますと……」

「賊なら私が対処する」


 トリンジは当然至極といわんばかりだ。


「はい、それは大変心強いのですが……備品が傷むかもしれませんし……」

「もしそうなったら実費を請求するがいい」


 寛大にもトリンジは理解を示したが、ご亭主はまだニコニコしている。


「犯人逮捕に協力しているのだから追加料金をだせといいたいのか?」


 ついにベレンがもちかけた。


「はい、そうして下されば幸いでございます」

「ふむ。いくらだ?」


 トリンジって、四角四面なのかそうでないのか。


「左様でございますね……では、二割増しでいかがでしょうか?」

「よかろう」

「前ばらいが当宿の規約でございまして」

「承知した」


 トリンジが、計算高いご亭主の意向を素直に飲んだ。


「毎度ありがとうございます。では、ごゆっくり」


 これで当座はすんだ。知らなかったこととはいえ、王命を受けた人間に害意をむけたのでは子爵家の運命も風前の灯だ。トリンジがいあわせなければ、少なくとも私を殺すくらいはできただろうに。


 もっとも、他人の心配をしている場合ではない。


「夜明けまでたいして間がない。私もふくめ、三人で順番にベッドを使って休もう。それ以外は見張りだ」


 トリンジの提案……半ば命令……は、いたく合理的だった。情緒の欠片もないのに目をつぶるなら。

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