番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 九
「時機からして、貴殿らの所業と無関係ではないだろう」
「そうだな……おい、俺達がここに泊まっているとどうやって知った?」
「街道ぞいに聞いて回った」
たしかに、仮面をつけていようと正装した私は目だつ。
「動機はなんだ? 金か?」
ベレンはあえて卑俗な尋問をした。
「復讐だ」
「ギルモを殺したのは偽聖女だぞ」
「姉様を宮殿から追放したのはお前だ、ロネーゼ!」
「その報いなら私も同じ目にあって果たされました」
「知ったことか! 姉様の名誉は汚れたままだ!」
たしかに、宮殿に復帰できたのではない。もっとも、先方だって王子の寵愛をめぐって私と弱肉強食だった。殿方の言葉で表現するなら五分の勝負にすぎない。ただ、それを少年に告げるのは気が引けた。
私はあっさりと実家を追いはらわれた。恋にいそしんだり文学にふけったりしたところで、女はいつでも家の道具だ。私はそれを逆に利用しようとして、こんなわけのわからない立場になっている。
少年の、姉への純粋な愛情はある意味でうらやましくすらあった。同時に、私にはこの場を右左する力がないのも事実だ。
「いずれにせよ、生かしておくわけにはいかんな」
ベレンの決意に、トリンジも黙ったままうなずいた。
黙ったままといえば、いっしょに捕まえた女は一言も口にしていない。
「あの……」
ようやく喋った。ギルモの弟を除く三人がいっせいに彼女に注目した。
ぶーっ! と、彼女は唇から煙めいたものをふきつけた。薄く広がったそれは、いやでも私達の目にふれた。たちまち涙がとまらなくなり頭がくらくらしはじめる。
ついで、ブチッと音がした。それから暗殺者達がたって走りはじめるのが聞こえた。
「くそっ……足まで縛ってなかったな」
ベレンがうめきながら後悔した。どのみちロープは足りなかったからしかたない。
「は、はやく……追わねば……」
トリンジも、ベレンと状況はかわらない。
あわただしく廊下を走って階段を降りる音がした。しばらくしてから、逆に階段をあがる音がする。
「いったいどうしたんですか、これは!」
最初に私達に応対した人の声だ。 まだ目が痛くて物がまともに見えない。
「ご亭主……水に浸して絞ったタオルを頼む……三枚……」
トリンジが頼むと、いったん部屋をでたのが耳でわかった。しばらくしてまたやってくる。
「お待たせしました。どうぞ」
私達は、各自でできるだけていねいにお礼を述べてからタオルを受けとった。目をぬぐうと、どうにか視力が回復した。




