番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 八
ベレンは、暖炉からでてきた頭を思いきり蹴ってから回れ右して私の方に飛び跳ねた。私は戸口の脇に避けて、フードはベルトのナイフをぬいた。トリンジはフードの背後から拳で頭を殴った。フードは床に倒れた。
「待てっ。私はこの者とは関係ない!」
トリンジが、剣を抜かないまま軽く両手の平をあげてベレンを制した。
ベレンはうなずき、まず暖炉の頭を調べにいった。トリンジはどこからかロープをだしてフードの両手を縛った。こう書くととても時間がかかったようだけど、一連があっという間におわった。
ベレンは、暖炉に現れた人間の両肩を掴んでずるずると引きだした。ススまみれでぐんにゃりしている。
「ロネーゼ、ドアをしめて鍵をかけろ」
「はい」
私がそうする内に、トリンジが二束めのロープをベレンへ投げてよこした。器用に空中で受けたベレンは、さっさとススまみれの胴体を両腕ごと縛った。
「ご助勢、痛みいる。だが、どうしてこの場にいあわせた?」
ベレンはまだ剣を納めずにトリンジを質した。
「宿の外で、貴殿らを監視していた。賞金の手配は部下に命じてある」
トリンジ……いや、王家からすれば当然の用心だろう。
「ふむ。では、顔を拝もう」
ベレンは、自分が縛った人間を担いでベッド際まで運んだ。トリンジも彼にならい、気絶した乱入者二人がベッドの縁にもたれかかる格好になった。
トリンジがフードを外すと、まだ若い……というより少年の顔があらわになった。短く刈りこんだ桃色の髪に、すっきりしたあごの線が初々しい。こんな状況でなければかわいい寝顔といってもいいくらい。
ベレンは、暖炉からでてきた人間の顔を自分の使ったタオルでぬぐった。肌の浅黒い女で、私より少しだけ歳上のようだ。指先からして、鍛えぬいた筋肉などはない。むしろ、繊細な作業を重ねた手のようだ。
「知りあいか?」
トリンジの質問に、私達は首を横にふった。もっとも、よくみると少年の方はどこか見おぼえがあった。
「ふんっ」
トリンジが、少年の両肩を掴んで軽く力をいれた。すぐに意識がもどった。
「お前達は何者だ?」
ベレンは少年を見おろしながら聞いた。少年は黙ったままだ。私は不意に気づいた。
「ひょっとして、ギルモ様のお身内?」
憎しみをこめた視線を、少年は私にむけてきた。雄弁すぎる答だった。
「ならこっちの女も子爵家の……」
「ちがう」
初めて少年が口を開き、ベレンの推測を否定した。
「金で雇った冒険者だ。段どりは俺がたてた」
「ならばこの者にも確かめねばなるまい」
トリンジは、少年にしたのと同じ要領で女の目をさました。
「聞かれたことにだけ答えろ。お前はこの少年に金で雇われたそうだが、所属組合は?」
女は無言無表情だった。




