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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 五

 ベレンはともかく、私は整った身なりをしている。闘技場のときと同じようにじろじろ見られるかなと不安になったものの、お客さん達はめいめい飲み物や雑談に夢中になっていた。


「いらっしゃいませ。お二人様で?」


 お腹がそれこそ満月みたいにつっぱった初老の男性が、にこにこしながら茶色いエプロンの前で両手を握りあわせた。


「ああ。飯はいらん、部屋はあるか?」

「あいにくと一部屋しかご用意できませんが、いかがしましょう」


 ベレンは私の返事を目で促した。


「私ならかまいません」

「じゃあ、頼む。とりあえず一泊だが、場合によっては連泊したい」

「かしこまりました。まず一泊分を前金でいただきますが、よろしいですか?」


 ベレンは財布をだして要求どおりに支払った。ちなみに馬の世話代も含まれている。連泊するしないをきめないままなのは、できるだけお客さんの要望に応じようとしているのだろう。


「ありがとうございます。それでは、どうぞこちらへ」


 男性は私達を二階へと案内した。そこは廊下ぞいに五つ部屋がならんでいて、私達のそれはつきあたりになった。実務的にも『五』という数字がドアに直接彫りこんである。


「鍵はこちらです。お手洗いは廊下を道なりに進んで曲がった端になります。では、ごゆっくり」

「どうも」


 私とベレンはそろって短く礼を述べた。


「どうせまっ暗だ。明かりをつけるまで戸口にいてくれ」

「はい」


 ベレンが鍵をあけてドアを開くと、やはり明かりはついてなかった。彼はさっさとはいってすぐつけた。大きくて古びたランプが卓上で光を放つ。


 ベッドは清潔そうではあったものの、一人分だった。机用の椅子はあるかわりにソファーもない。かけ布団も一枚だけで、毛布はなかった。とても大きな赤レンガの暖炉はある。この季節だと使うことはない。


「俺は床でかまわん。この季節なら布団もいらんだろう」

「でも……風邪をひいたらよくないです。それに、床が固いと疲れがとれません」

「だからといって二人で一つのベッドというのもよくないだろう」

「わ、私……かまいませんから」

「なに!?」

「い、いえ、変な意味じゃなくて! 隣で寝るくらいなら……いいです」


 恥じらいのあまり消えいりそうな声音になった。


「……」


 腕を組み、ベレンは思案にふけった。


「ならば、やるべきことは一つだ」

「……?」

「手洗いで身体をぬぐってくる」


 そう。小さな宿屋ではお風呂やシャワーがないのは当たり前。つまり、私もそうせねばならない。


 ベレンは一人で器用に鎧を外した。

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