一、これが因果応報!? いまに見てらっしゃい! 五
「痛いっ!」
聖女に気をとられ、私は戸口に足の小指をぶつけた。がつんっと派手な音がする。
「なんでしたら回復しましょうか?」
思わず足をとめた私に、聖女はとどめの一言をさした。
無視して唇を噛みしめ、私はふたたび歩きはじめた。今度は振りかえらなかった。
そこからは、まるで庶民の職場にある流れ作業かなにかのように場面が進んだ。宮殿の裏口から貧相な馬車にのせられ、実家まで数時間。椅子は固いしひどく揺れるし、いちじるしく乗り心地が悪い。壁と天井があることだけがまだしもの幸いだった。乗り物酔いこそせずにすんだが。
聖女は最初から全部知っていたのか。その可能性はあるだろう。権力欲とは無縁だなどと決めつけていた我が身の愚かさをなげくほかない。
殿下も殿下だ。聖女にたぶらかされたようなものだ。結局は、なんの主体性もなく目の前の状況に流されているだけだ。
などと心のなかでいくら文句をいっても始まらない。
わかっている。人を陥れる自由は人から陥れられる自由と合体している。自分だけ例外というわけにはいかない。
とにかく、実家で善後策を練ろう。
馬車がとまった。窓ごしの風景から、実家についたとわかる。
馬車は、内側からはドアがあかないのにいまさらながら気づいた。罪人が勝手に逃げないようにするためだとは聞いたことがある。
ドアがあけられた。自分からすみやかに降りた。
馬車が回れ右するのを横目に、懐かしの我が家へ……門番は身じろぎもしない。
「開けてちょうだい」
これまでのうっくつもあり、いらだちのこもった命令口調になった。
「どなたですか」
「はぁっ!? 顔がわからなくとも格好で察しがつくでしょう? ロネーゼです!」
落ちついたらこんな門番はクビにしてやる。
「我が主君から、出戻りの娘などは当家に存在しないという言葉がありましたので」
門番の説明は、私の怒りを木っ端微塵にふきとばした。