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番外編 陛下からのお使い……予想はしておりましたけれど 三

「食事中に失礼。怪しい者ではない」


 道に近い木の陰から一人の男性が現れた。馬にのっている。ベレンよりずっと歳をとっているものの、老人というほどではない。黄昏時が近いのではっきりしないが、中年ではありそうだ。鎖帷子にマントを羽織っていて、腰に帯びた剣は実用的なこしらえだった。いやちがう。王家直属の近衛騎士だ。皮肉にも、師匠から学んだ知識で剣から相手の素性をある程度理解する力がついていた。


「そこで止まれ。用件をいえ」


 ベレンは鋭く相手をとめた。私達から十五、六歩くらいはなれている。


「私は王家近衛隊の騎士、トリンジ。王命によりレンべことベレン氏ならびにゼネーロことロネーゼ氏を捜索している。貴殿らはどうか」


 トリンジなる騎士は、ふつうに聞こえるよう意識して大きな声をだした。


 ベレンはだまって私を見た。私はかすかにうなずいた。


 こうなると、よけいな抵抗をしてもほとんど無意味だろう。それよりは、相手の真意を知るほうがいい。いきなり殺すつもりならわざわざこんな回りくどいことはしないだろうし。


「いかにも、我々はその両名だ」

「ならば、陛下の仰せにもとづき宮殿までご足労願いたい。先に申しておくが、貴殿らをとがめる意図は陛下にはない」


 『いまは』とつけ加えるべきだろう。宮殿の人々は、握手をしながら空いた手で当の相手を刺す程度のことは平気でやる。


「しばらく我々二人で話す時間をえたいが、いかがか」

「心えた」


 トリンジとやらを前に少しもひるんだところはない。さすがは私の師匠……といいたいけど、どこでそんな威厳や迫力を身につけたのだろう。


「どう思う?」


 ベレンの単刀直入なささやき声が、私の身を引きしめた。


 一番可能性が高いのは、偽聖女の正体を暴いた私達を歓待。毒入り料理で。不名誉極まりないバル殿下の醜態は隠しようがないにしても、私達を殺してから全責任を押しつけるというのはいかにも王族が好みそうだ。殺してしまえばどうとでも繕いようはある。


 次に可能性が高いのは、私の名誉を回復させる一方で監視をつけて釘をさし続ける。恩を売ってから脅すというやり方で、庶民の間でもふつうにみられる。殺されるよりはましだけど、一生鎖つきだ。


 最後に、一切を公平に裁いて白黒つけるという可能性。これがもっとも起きにくい。だいいち、そんなことをすれば私がギルモを陥れて賭博師を殺したことまで露呈する。死罪には至らずとも、それこそ国外追放にはなるだろう。自発的にでていくのと法的にそうなるのとはまるで意味がちがう。


「まず、とがめられてないなら闘技場の賞金がまちがいなく降りるよう手配を要求すべきです」


 相手の誠意を量るためにも、また一定の金銭をえるためにもゆずれない。


「そうだな。ほかには?」

「賞金を受けるには時間が必要です。手近な宿を指定して、そこに届けてもらうようにしましょう。それから身だしなみを整えて参上するようにします。その間に、できるだけ多くの情報をえないと。つてがあればいいのですけど……」

「それは俺がどうにかしよう」

「ありがとうございます。それと師匠。いったん宮殿に入って、いざというときがおきたら私があなたを守ります」


 私は真意を口にした。

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