六、大詰め! すべてに決着ですわ! 四
彼女の笑顔は、追放されたときの私の屈辱をいやでも思いださせた。忍の一字あるのみ。
「じつは、先代会長はリオク様のことをまだ知らなかったのでございます。機会をみて、私から紹介しようと考えていた矢先のできごとでした。悪魔はそれをも踏まえ、私に取りひきをもちかけました」
だんだん核心に近づいてきた。ベレンの様子が心配だ。
「取りひきとは、悪魔が力をとりもどすまで真相を隠して協力するかわりに私が新しい会長になることでした。私はそれを承諾しました。悪魔はリオク様になりすまして先代に古代剣の鑑定を要望しました」
ここだ。ここが本当に知りたかった狭い意味での『はじめの一歩』だ。
「悪魔は、古代剣のなにが自分を拘束しているのかを具体的に知りたかったのです。当時の私の鑑定眼ではそこまで見ぬけませんでした。先代はなにかを感じとり、あえて古代剣を偽物と断定しました。それで、今度は先代の愛弟子にして私の親友だったベレンにもちかけのでございます」
ブロンゾは言葉を区切り、ベレンに顔をむけた。
「ベレンとは、まさにこの優勝者……レンベにございます」
「なにーっ!?」
がく然とする王子に同調するかのように、観客も轟然とどよめいた。
「失礼ながらレンベことベレンは、当時の私よりさらに未熟な鑑定眼しかもっておりませんでした。しかし、偶然にも古代剣の柄頭にはめられたルビーがそれではないかと気づきかけました。ベレンはそれを先代に相談し、先代はだれにも万が一の迷惑がかからぬよう一人でたしかめました」
それで、図らずも封印が外れてしまった。悪魔はさっそく先代を殺したものの、聖女としていかにも慈善事業に熱中するふりをつづけた。資金は新会長となったこのブロンゾが提供した。
悪魔の狙いは、最終的には国そのものを手中に納めることだった。聖女として著名になり、王子にとりいろうとしたときに私を知った。そこからはおおむねすでに私の知るとおりだ。
「どうせなら兄上を狙えばすむではないか! どうして王位継承権の低い私なのだ!」
「恐れながら、王太子殿下をいきなり狙うのは目だちすぎます。ほどほどにお力があり、なおかつ相対的には邪魔が入りにくいという理由で殿下が選ばれたのでございます」
「おほほほほほ。ブロンゾ様は古美術商というより吟遊詩人にむいてらっしゃいますわね」
悪魔と名ざしされたリオクがようやく口を開いた。
「リオク様……いや、リオク。もう、終わったんだ」
ブロンゾの呼びかけは、事実の指摘というにはほろ苦すぎた。
「終わるもなにも、仮に私が悪魔なら先代とやらを殺した時点で国そのものを好きなようにできたはずでしょう。慈善行脚や殿下へのご信任を回りくどく整えるなど必要ありません」
「ところができなかった」




