六、大詰め! すべてに決着ですわ! ニ
とくと味わうがいい。あなた自身が追放し、絶望のどん底からはいあがってきた人間の素顔を。
ゆっくりと仮面に手をかけ、外した私を目のあたりにした王子は……腰をぬかしてへたりこんだ。観客がざわめき、一気に不穏な空気がたちこめる。
「お、おま、お前は……」
魔法で拡幅された王子の言葉が、そのまま観客に伝わっていく。
「お久しぶりにございます、殿下。聖女様もお元気でらっしゃるようでなによりですわ」
「し、し、死んだのでは……」
「あら殿下、お人聞きの悪いご冗談ですこと。どなたかしら、そんなお話を殿下になさったのは? それとも殿下ご自身の発案ですの?」
「リ、リオ……いや、お前は私をたぶらかした重罪人だろう!」
そういう台詞は、せめてちゃんとたってからでないと迫力がない。
「重罪人? どのような罪でございますか?」
「とぼけるな! 子爵令嬢のギルモを無実の罪で陥れ、私にそれを信じさせただろう!」
まっさおな顔でがたがた震えつつも、とにかく反論しようとする点だけは認めてもいい。虚しい抵抗だけど。
「では、どうして正式な裁判にかけられなかったのですか? ギルモ様とて同様です。あなたが一方的に追放なさったのではありませんか」
「私の権限だ!」
「聖女様と浮気する権限でございましょう?」
「無礼な! いくらなんでも容赦しないぞ!」
「殿下」
それまで黙っていたベレンが、ようやく口を開いた。
「なんだ!」
「ゼネーロのことはともかくとして、私には優勝した人間としての特権があったと記憶しております」
「いまはそれどころではない! だいいちお前は、そのゼネーロに雇われている人間ではないか!」
「たしかに、私はゼネーロに雇われた人間でございます」
「ならば黙れ!」
「ゼネーロは、殿下に罪をなした人間ではございません。罪をなしたのはロネーゼであり、それは追放をもって償われました」
そう。あくまで私の登録名はゼネーロ。優勝者としてのベレンの権利になんらさわらない。
「恐れながら、殿下をお慕い申しあげている民衆の声にお耳を傾けられてはいかがでございましょうか」
ベレンが言葉を重ねると、場内がいっせいにレンベとくりかえしくりかえし絶叫した。
「わかった! わかったから、まずは私を助けろ! それから観客は静まれ!」
「これは失礼いたしました」
ベレンが王子を助けおこし、観客達は口を閉じた。
「それで、なにが望みだ」
かくなるうえは、儀式を滞りなく進めるしかない。失われた体面もいくばくかは回復する。




