一、これが因果応報!? いまに見てらっしゃい! 四
普段なら無作法な行為だ。しかし、ここは聖女の迫力が礼儀に勝った。
「聖女様……なにがおっしゃりたいのですか?」
「ロネーゼ様。どうか、真相を打ちあけてくださいませ。そうでなければお力を貸せません。私の個人的な心情ではなく純粋に呪いを解くためでございます」
「それは……」
まさに大きな賭けだ。いくらなんでも呪いの人形までは喋れない。賭博にかかわったことくらいならいいだろう。バレても大丈夫な範囲で。
「賭博のためにお部屋を準備したのは私ですわ。お断りしますが、私自身は賭博にはかかわっていませんの。ただ、お二人からどうしてもとお願いされて……友情を感じてしまいましたの」
「そのような真相だったとは……。よく打ちあけてくださいましたね。心から感謝いたします」
「とんでもございませんわ」
これで私は義務を果たした。
「で、殿下!」
ドア係のメイドが、部屋のすぐ外ではしたなくも大声をだした。不覚にも、私の笑顔は時ならぬ不安に縛りつけられひきつった。
「かまうな!」
勢いよすぎる音をたてて自らドアをあけ、いきなりやってきたのはまさに第三王子バル殿下。背が高く、ぜい肉のひとかけらもないひきしまったお身体。性格とおなじようにまっすぐな輪郭と鉄色の髪。
「ロネーゼ、すべて聞かせてもらった! 調べはついているぞ!」
このうえなく厳しい表情で、殿下は私にいいきった。
「な、なんのお話ですの?」
「この部屋に呪いの人形があり、それを聖女殿に探しあてさせるという寸法だろう」
図星で絶句……お茶でも飲んでごまかしたいのに、身体が動かない。
「これはお前の策謀だ。まんまとだまされたよ」
「私をお疑いになられて……」
「だまれ。賭博師を殺した毒や、人形は都の下町でこしらえられたものだろう。お前の足どりも洗ってある。このぺてん師めが!」
「聖女様……」
とにかくこの場を切りぬけたい。わらどころか聖女がいる。客人だし、どうにかとりもってくれるはず。
「私……殿下の真のお気持ちにふれてしまいましたの」
聖女の台詞は、生ぬるい毒や呪いよりはるかに致命的だった。
「このさいはっきりさせておこう。お前との婚約はこの場で解消だ。聖女リオクこそ私の伴侶にふさわしい。なんといっても権力の亡者を見事に暴きたててくれたからな」
「恐縮ですわ、殿下」
「では、そろそろかたをつけよう。衛兵!」
数人の屈強な男衆が、鎧兜をガチャつかせながらなだれこんできた。つい五分前なら絶対に許されない行為だ。
殿下はくいっとあごをしゃくった。
「ご実家までご案内します」
型どおりに、衛兵の一人がいった。だまってうなずき、私はどうにか自力でたちあがった。前後を衛兵が挟み、そのまま戸口まで歩く。
最後に、私はちらっと振りかえった。殿下は無言で腕組みし、彼のかたわらで聖女は私を見送りながら笑っていた。
笑った。この私を。許せない。笑う権利があるのは……。




