五、いよいよ正念場! のるかそるかですわ! 三
闘技場の上空に、胸からうえだけの殿下の巨大な幻がうかんだ。もちろん、これも魔法だ。本人は三階の貴賓席にいる。
二か月近くぶりの殿下は、以前ほどは魅力的に思えなかった。相変わらずの美男子だし、笑顔も輝かしいのに……。玉の輿というか、王子の地位を使ってのしあがることを狙っていたからだといえばそれまでだけど、王子の個人的な人あたりのよさを好ましく思っていた一面も以前はあった。なんだかいまは、しおれかけたバラのようだ。
『国民よ、鍛えぬいた肉体が技を競う姿をともに鑑賞しよう。世界でも最高の技が、美に昇華していく様子を一人一人の心に焼きつけていこう。心いくまで私といっしょに楽しんで欲しい。また、今回は賓客として聖女リオク殿に同席頂いた』
幻に、聖女がくわわった。慈悲深げな微笑をうかべている。ギルモをどう利用したのか、古代剣にどうかかわっているのか。必ず暴露してやる。
聖女を従えた王子が右手を軽くかかげると、一般席の観客達は熱狂的に拍手した。王室万歳、王子万歳という歓声もあちこちから響いてくる。
拍手をしているのは特別観覧席の私や他の元締め達も同様だった。しかし、ずっとまばらだった。私とベレンは無関係ながら、派手な演出の裏で勝敗の筋書きはほぼきまっている。誰がいくらもうけるかも話がついているにちがいない。彼らにとっては五回目の予定調和にすぎなかった。
『殿下、またとないお祝辞をありがとうございました! それでは選手入場と紹介です!』
王子と聖女の姿が消え、ブラスバンドがまた演奏をはじめた。東出入口から選手が一人ずつやってくる。アナウンスは音楽にあわせて選手の名前や特徴、そして使っている武具防具の説明から鑑定士の名前を読みあげていった。というより、読みあげ自体が客を盛りあげる演出だった。
『自由参加選手、レンべ! ゼネーロ興行所属、二十九歳! 今大会が初参加です。兜の下にどんな素顔が隠されているのか、実にミステリアスな雰囲気です! 興行主のゼネーロは仮面の淑女、興行主としては唯一の女性です! こちらもおおいに好奇心をそそります!』
性別は関係ないだろう、と抗議したいがどうにもならない。こんなことでいちいち恥じらったり腹をたてたりはしない。はるかに大きな目的がある。
『最後をしめくくるのはこの男、ブロンゾ、二十九歳! なんと、なんと! ブロンゾ古美術商会当主にして、兼任興行主! しかも自由参加です! ひっさげるのは商会秘蔵の逸品、五百年前の古代遺跡から出土したという無銘の剣! 優勝候補とはべつな意味で話題を集めています!』
開いた口がふさがらない。そういうことか。正気の沙汰じゃない。寄付特権のお金なんてどうにでもなるはずなのに、それさえない。




