五、いよいよ正念場! のるかそるかですわ! ニ
運営側は、生きてさえいれば勝敗に関係なく手あてをしてくれる。次の試合にでるまえに、専門の僧侶が回復祈祷でたちまち元通り。だから、負傷は心配しなくていい。兼任興行主でないのに自由参加選手という、じつに中途半端な立場だけど。
当日の早朝、私は一人で円形闘技場にやってきた。予想よりはるかに大きなお祭りで、夜明け前からならんでいたであろう観客が列を作っている。屋台や露店も外壁沿いにならんでいた。著名な剣闘士には、自由身分だろうと奴隷だろうと追っかけのファンがいるのもわかった。ひいきの選手を激励するために、数人がかりで派手な横断垂れ幕を持ってきた人々もいる。
特別観覧席は貴賓席でこそないものの、屋根つきで張りだし式になっている。みおろせば、続々と一般席を埋めていく数万人分の頭がゆれている。一般席は野ざらしだし、隣の客と押しあいへしあいせねばならない。それに比べれば、ここははるかに快適だ。
とはいえ完全に満足というほどでもない。もっとも気がかりなことは、本番の前日……つまり昨日からおきていた。運営からの知らせで現場にいくと、ブロンゾの姿がなかった。下見もかねての会場案内が目的だったが、まちがいなく彼も特別観覧席につく資格があるはずなのに。名代をだすとも思えない。調べる時間はなかった。
いざフタを開けると……ある程度は想像がついていたものの……女性は私だけだった。御前試合は三日かけておこなわれる。トーナメント式で、休日はない。つまり、私は三日連続でここにくる。ベレンとは完全に遮断される。公の場でもあるからビヨット衣料店でほどほどのドレスを借りてきているものの、同席する数十人の元締め達からときどき無遠慮な視線を送られるのを我慢せねばならなかった。ただ、女性が私一人だけということで男衆はたがいに牽制することになった。結果的には声さえかけられていない。仮面もつけているのだし、男衆の下品な好奇心などどうでもよかった。それより、ブロンゾ。
当日、夜明けから数時間のち。円形闘技場の上空に花火があがった。音だけで光はない。ざわついていた一般席の観客も一様に静まり返った。選手入場口……円形闘技場の東西南北に一つずつある……の東側から、ブラスバンドの一行が行進曲を奏でながらやってきた。彼らはそのまま北出入口の前にならび、しばらくして演奏をとめた。
『にぎにぎしくご来駕の皆様、これより第五回王家杯円形闘技場トーナメントを開催します! 試合に先だち、主催者であらせられる第三王子・バル殿下よりお祝辞を賜ります。皆様ご起立をお願いします!』
魔法で増幅されたアナウンスが流れ、一般客だけでなく私や他の元締め達もいっせいに席からたった。




