五、いよいよ正念場! のるかそるかですわ! 一
さらに数週間後。
試合場は、中流階層と上流階層の地区にまたがる円形闘技場だ。まずそれを知った。
仕事場を担保にお金を用意できたとはいえ、ほかの元締めからなにか干渉されるんじゃないかと心配はしていた。意外にもすんなり当日を迎えられた。にぎやかしや腕試しのつもりで個人参加する人間もかなりいたから目だたずにすんだが、彼らの大半は初戦落ちだろう。八百長をしかけるような興行主は、そもそも一定以上の実力を備えた選手をそろえているから。あるいは、興行主の命令でわざと個人参加を装っている者もいる。
厳密には、登録料は選手にも選手を雇っている興行主自身にも別々かつ公平に同じ金額がかかる。ただし、選手が自分自身を興行している場合、つまり兼任興行主の場合は一人分でよい。さらに、登録料とは別個に寄付金を一定額追加で払った者は『寄付特権』を獲得する。兼任興行主であろうとなかろうと、したければ寄付をしてかまわない。
たいていの興行主は、よほど貧しくなければ……つまり兼任興行主などではなく専任興行主なら……複数の選手を抱えている。寄付特権があれば、たとえば三人いる選手のうち一人をえらんで初回を不戦勝にするなどといったことができる。ほとんどの個人参加者は自分の登録料だけを工面するのがせいいっぱいで、寄付と無縁の兼任興行主にほかならない。ついでに説明すると、寄付特権と無関係な興行主に所属する選手はお上品にも自由参加選手と表現される。それでも、箔をつけたり武者修行をしたりといった動機で参加したがる兼任興行主……またの名を自由参加選手……は少なからずいた。
寄付特権をえるまでのお金はなかったものの、私自身が専任の興行主として登録することはできた。所属選手はベレン一人。専任の興行主は、寄付をしなくとも特別観覧席で試合を観戦できる。ちなみに、選手は兼任興行主であっても……たとえ寄付特権があろうと自分の試合がないときだろうと……大会期間中は控室と医務室と試合場以外はどこにもいけない。控室も個室ではなく大部屋で雑魚寝となり、三日間缶詰だ。すべて不正防止を意識している。だから、八百長は大会がはじまったときにはすでに完結している。
いずれにせよ本名はまずい。私はロネーゼならぬゼネーロとして登録し、当分は仮面をつける。扇もつけたかったものの、予算不足で断念した。ベレンはレンべと名のり、面あてつきの兜で顔を隠すことになった。
レンべことベレンは、冒険者時代の装備や消耗品をずっと保存していたし手いれも怠っていなかった。剣から鎧兜まで自前で調達できたのはまだしもの幸いといえる。




