四、虚々実々……細工はりゅうりゅうでございますのよ! 五
さりとて観察だけではなかなかわからない。こんな薄暗い路上ではなおさらだ。できるだけ近づいて、上下左右から観察したもののさっぱりわからない。
「砂が半分つきたな」
ご親切にもフードの男は教えてくれた。
考えろ。考えろ。考えろ。
フードの男は、スイッチで刃が引っこむような仕かけはないと保証した。それは事実だろう。自分にとって保証して差しつかえないことはいくらでも保証する。つまり、スイッチはない。
「もう一割も砂はないぜ」
砂時計は抜きさしならない状況を伝えていた。あと数十秒で決着になる。
私の横で、ベレンがかすかに地面を靴で蹴った。いや、こするような……。こする……。二つの物をすりあわせる……。
「時間……」
「イカサマです!」
「なんだと?」
はじめてフードの男が不快さをあらわにした。
「短剣はハッタリにも本物にもなります!」
「へー、どんな根拠があるんだよ」
「まず、短剣をぬいてください」
フードの男は、無言でそうした。柄には刃がついてない。ように思える。
「つばに埋めこむ形でカモフラージュした小さな刃がありますよね? いつもは刃がないけど、やろうと思えば抜くときに鞘の縁と強くこすりあわせれば刃がでてくるようになっています。スイッチじゃなくて、小さな突起かなにかをテコのように使うのでしょう? なんでしたら私が実演しましょうか?」
鞘から抜くのはフードの男本人がやる。そこが、ミソだ。もっとも、たいていの人間は刃がある方に賭けるだろう。短剣をつつきまわしたところで、鞘にある状態から特別な手順をふまえないかぎりわかりはしない。そして、ほとんどの人間は一度抜いた短剣を改めて鞘にもどしてから考えたりはしない。柄なら柄、鞘なら鞘だけを調べる。仮に突起が見つかっても粗悪品だからとごまかせばすむ。
「くっくっくっ……あはははは! わははははは! 参ったね。完敗だよ」
「なら、約束を守ってください」
「それは保証しよう。ちょっと時間をくうけど、次の月末まででいいよな?」
それは、例の御前試合を意識した発言だった。私はちらっとベレンを見た。彼は短くうなずいた。
「じゃあ、さっそくとりかかるからな。あとベレン、口だしするなってのはヒント一切を含むからな。次は無効にする」
フードの男はしっかり釘を刺し、短剣を懐にしてから闇にまぎれて消えた。
「か……勝ちました……」
いくら陰謀が得意でも、こんな目の粗い賭けはさすがにこたえる。もし負けたらと思うとぞっとして、足腰から力が抜けた。勝負の緊張感だけではない。フードの男は、それまでのおちゃらけた態度とはまるでかわった恐ろしい迫力とスゴ味をはなっていた。
地面に腰が落ちる寸前、ベレンは両手で私の両腕を外からおさえた。




