四、虚々実々……細工はりゅうりゅうでございますのよ! 四
「ゲームは俺が選んでいいか?」
「はい」
たいていの賭博場では、初見の女性に甘くなる。あとあと旦那衆をつれてこさせて、まとめてカモにするからだ。反対に、フードの男はいかにも常連だ。当然、扱いは辛くなる。
「よーし。じゃあ外にでるか」
「え?」
これは私も意外だった。
「おいおい、俺が選んでいいっつったじゃねえか。それとも降りるかい?」
「いえ。でも、遠くにいくのはなしでお願いします」
「心配いらねえよ。ベレンもついてきていいぜ」
まずい。主導権を奪われた。だからといってあとには引けない。
フードの男は自分と私のお酒代をカウンターにおいた。ベレンも自分の代金を払った。支払いがすんで、フードの男についていく形でお店をでた。私達は最初から丸腰だったのに対し、彼は朝から帯びていた剣を返してもらっていた。それだけでなく、短剣も一ふり受けとった。
フードの男はそのまま裏路地に進んだ。薄暗く、私達以外に人はいない。
「さてと。チャッチャとやるか」
フードの男は、いきなり短剣を左手に持って私達の目の前にだした。正確には鞘を握り、刃を水平にして自分にむけている。つまり害意はない。少なくともいまのところは。そのかまえには見覚えがあった。ベレンの仕事場に飾られていた肖像画とそっくりだ。
「簡単だ。あんたはベレンの弟子なんだよな? じゃあ、この短剣が柄と鞘しかないハッタリなのか、ちゃんとした本物なのか見ただけで当ててくれ」
「スイッチで刃をだしいれするなんてなしですよ」
「そんなセコい真似はしねえよ。なんなら勝負のあとでたしかめてもいいぜ。ただし、さわるのはあくまで勝負のあとだ。それから、俺に質問するのもなし。あくまであんたの眼力だけでやってもらう。ベレンも黙ってなよ」
「いいだろう」
「よし。こっちに砂時計がある」
フードの男は、左手は動かさないまま右手で小さな砂時計をだした。せいぜい三分といったところか。
「この砂がつきるまでが制限時間だ。覚悟はいいか?」
「はい」
「ここに砂時計をおくからな。おいたらはじめだ」
壁ぎわにならぶゴミ箱の蓋に、フードの男は砂時計をおいた。
勝負開始だ。
そもそも、ハッタリの短剣なんてなんの役にもたたない。なら、答はきまったようなものだ。
などと飛びつくと後悔することになる。こうした手あいは、どうにでも答を細工できるような品を最初から用意している。でなければわざわざこんな手のこんだことはしない。
ならば、イカサマを見やぶることが肝要だ。彼自身もイカサマには容赦しないと明言していたし。




