四、虚々実々……細工はりゅうりゅうでございますのよ! ニ
とはいえ自分を勘当した実家をダシにするのは、ある意味で宮殿をダシにするより危険だった。徹底的に追及すれば私の身元がバレてしまう。
「たしかに。伯爵家の専任仕たて師にしか許されない技法です」
貴族は、ぜいたくやおしゃれにかかわる技術をたびたび強く独占していた。プロなら強く反応するはず。予想どおりの展開だった。
「恐れいります」
「いいでしょう。それならば……」
ビヨットの提案した金額を聞き、私はベレンを見た。彼はかすかにうなずいた。
「はい、そのお金でお願いします」
「ありがとうございます。では、宮殿への口利きをよろしくお願いしますよ」
商談が成立した。
もちろん、私の計画がうまくいけばビヨットの恩義には報いる。いかなければそれまでだ。
「それだけでは心もとないな」
お店をでて、馬の手綱を馬留めから外しつつベレンはいった。
「ええっ? どうして……」
「強欲は身を亡ぼす。だいいち、むこうが催促してきたらどうする。お前は賭けに自信があるんだろう?」
「はい」
ベレンは、けっして案山子ではなかった。私の交渉がいきすぎにならないよう見はってくれてもいた。ならば、心をきりかえて次の仕事に臨むほかない。ちょうど、そろそろ繁華街の賭博場が開きだすころあいだ。
賭博場にも格式というものはある。会員制で、べつな会員の紹介がなければ出入りできないようなところから、地面に直置きした箱の上でサイコロを振るようなものまで。
手っとりばやく判断するには、出入口をいきかう客と門番を務める黒服の体格が決めてになる。
私が選んだのは、仮面姿の貴族たちこそいないもののそれなりに着飾った紳士淑女が出入口に自然と群れを作るところだった。黒服はそれほど筋骨たくましくないかわりに、玄関周りにはチリひとつない。
入るのに料金を取られるようなお店もあるものの、そういう場合は看板などではっきり知らせる。さもないと信用問題になる。逆に、入場料無料というのをひとつの宣伝にしているところもある。ここは後者だった。
出入口で簡単な新身体検査を受け……私は 女性の黒服からだったが……簡単に入店できた。室内は明るく華やかで、チップやカードがやり取りされる音と勝ち負けに基づく叫び声がこだましている。
「で、なにをやるんだ。カードか? ルーレットか?」
ベレンはこうした空間が明らかに苦手らしく、落ちつかない様子できょろきょろしている。
「店内のバーにいきましょう。一人で飲んでいる羽振りの良さそうな人にサシの勝負を申しでるんです」
「そんな知識、どうやって身につけたんだ」
「本で読みました」
宮殿での、庶民の文化ごっことはいえなかった。
「応じてくれる人間がいるのか?」
実のところ、どのお店でも客同士の勝負は禁止している。誰が勝とうともめごとを起こすにきまっているから。




