四、虚々実々……細工はりゅうりゅうでございますのよ! 一
できるだけ丁寧にたたんだドレスを袋にいれ、私はベレンとともにまた仕事場をでた。彼がだした馬に、今度は横すわりになってうしろにのる。
「ちゃんとつかまれよ」
「はい」
横すわりでも、彼の両脇から腕を回せばいやでも抱きつく姿勢になる。馬は、裕福な貴族にとってさえ高価なので二人乗りは珍しくない。でも……やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
そんな葛藤とはうらはらに、ベレンは馬を走らせた。ビスク鉄橋を渡り、夕方の迫りつつある中流街の目貫通りをぬけつつ衣料品店へ。ベレンは最初からあてがあるようだった。一軒家の、ほどほどにもうかっていそうな仕たて屋に割とあっさり到着する。
「降りろ」
ベレンの命令を実行すると、彼は手綱を玄関の脇にある馬留めにつないでから率先してドアを開けた。鈴が軽やかに鳴り、エプロンをかけた中年の男性が小走りにやってくる。
「こ、これはベレンさん……お連れの方は?」
男性の表情にも口調にも、迷惑の種に対する嫌悪感がかすかにたゆたっていた。
「助手です。今回は、少し複雑な相談がありまして、お時間を頂けませんか?」
きびきびとベレンは頼んだ。
「助手のロネーゼです。よろしくお願いします」
「店主のビヨットです。こちらこそ」
ちぐはぐな服装をした私からの挨拶に、ますますビヨットは困惑したようだ。
「はぁ……まぁ、とにかく奥へどうぞ」
そういいつつ、ビヨットは私が抱える袋に目ざとく注目した。
「ありがとうございます」
私とベレンは礼を述べて、ビヨットに導かれた。応接室は、ベレンの仕事場と宮殿のちょうどまんなかといった格式でそれなりに快適だった。
「それで、ご相談とはなんでしょう」
「まずはこちらを」
ベレンに目配せされた私は、袋からドレスをだした。
「実は私、宮殿にちょっとしたツテがありまして。そのドレスはとあるご令嬢が身につけていたのですが、野外園遊会で猪にからまれてご覧のとおりです。社交界で使えなくなったので私に下げ渡されました。つきましては、ドレスを買いとって欲しいのです。そうすれば、私を通じて宮殿にもつながりができますよ」
「私どもにも信用というものがございましてねぇ。失礼ですが、こんな品で宮殿とのつながりを訴えられましても、いささか……」
ビヨットは、ドレスに手をふれないまま難渋した。
「この刺しゅうに見覚えはないですか?」
私はドレスの胸元にある一角獣を見せた。奇跡的に、そこは無傷だった。
「ボネス伯爵家ですな」
「そうです。この刺しゅうをもって、真贋を見極めてください」
「拝借してよろしいですか?」
「どうぞ」
王子の婚約者だと正式に発表されてなかったせいで、庶民にはまだ私の面が割れてない。




