三、類は友を呼ぶ……とでもいうのかしら? 私は例外でございますわ! 七
「陰謀そのものだ。鑑定士同士でなれあいをして鑑定書の内容を右左したり改ざんしたりする」
「なれあいがどう役にたつのですか?」
「じつのところ、鑑定士は特定の鍛冶屋や商人と結びつきやすい。お抱えになれば生活が安定しやすくなるからな。で、雇い主同士が商売仇にもなる。うまい具合に利益を分配できるよう、あらかじめ打ちあわせをしておく。今回の剣はわざとダメな品だと鑑定したかわりに、次はこっちが譲ってもらうというあんばいだ」
「でも、ダメな剣が役にたったりその逆もあったりするのではありませんか?」
「そこは程度を加減する。ダメはダメでも最初のうちはよく斬れる、とかなんとか」
わかってしまえば単純なからくりだった。
宮殿の陰謀にくらべればみみっちいとすらいえる。
「さっきの男性は、なれあいに加わるよう誘ってきたのですか?」
「そういうことだ。しかもしつこい。来月の月末に剣闘士の大会がある。剣闘士には自由身分もいるが奴隷もいて、奴隷の所有者はたいてい金持ちの興行主だ。賭けもおこなわれて莫大な金額が動く。だからこそ、街の鍛冶屋という鍛冶屋が自分の武具や防具を売りこむ。そのとき大事な判断材料になるのが鑑定士の折紙だ」
そういえば、第三王子は血なまぐさい剣闘や拳闘に夢中だった。自分が参加するのじゃなくて、観戦するほう。円形闘技場で死ぬまで選手を戦わせるとかいうやつ。まだ婚約者に内定していた時分に、細かいルールを熱く語っていたな。全部聞き流したけど。
一つだけあやふやに覚えていることがあり、私は好奇心をおさえられなくなった。
「優勝したら、賞金かなにかでるんですか?」
「むろんだ。二位以下にもそれなりの賞金や栄誉はある。だが、優勝者だけが当人が所属する興行主とともに王子からじかに祝福の言葉を受ける。そして、王子に個人的な願い事が一つだけできる。当然、めちゃくちゃな願いごと……世界一の大金持ちにしろとか、あと無限大の願いをかなえつづけろとか、不老不死の身体にしろとかそんなのはダメだ」
聖女とわかれてよりをもどしてほしいというのはどれくらい非常識になるんだろう。
庶民として仕事に打ちこみ、適応していくにつれて王子の記憶はどんどん色あせていった。政略結婚の延長みたいなものだから当たり前か。ベレンのほうがよほど……いや、それは関係ない。師弟なんだし。
「あの人は、師匠に偽の折紙を書かせようとしているんですか?」
「俺の師匠が遺した折紙というふれこみになるよう、俺に捏造させたがっているんだよ」
陰謀としてあまりにも劣悪だった。だいいち陳腐すぎる。ただ、第三王子に謁見する機会があるとして、それまでに聖女の弱味を握りさえすれば逆転は可能だ。




