三、類は友を呼ぶ……とでもいうのかしら? 私は例外でございますわ! 六
札をドアの外側にかけてからまたしめて、鍵をかけた。鍵は出入りのたびにかけてはいるにしても、初日からおどろきの連続だ。
「数年前。俺の師匠は、とある冒険者がどこかの地下迷宮で手にいれた剣の鑑定を頼まれた。新品同然だが鑑定魔法が効かず、当人も見つけてからそのまま使ってない状態だった。へたに分解すると完全に壊れるという説明書もついていた。そのとき俺は、中流階層の職人街に仕事場をかまえた師匠のもとで住みこみながら修行をしていた」
水さしの水をコップにうつし、ベレンは一口飲んだ。
「地下迷宮自体は五百年前の古代遺跡だった。師匠は、剣は遺跡と無関係だと判断した。つまり偽物だ、骨董品としては。機能についても、ありふれた剣とかわらなかった。ただ、柄頭にはめられた大粒のルビーは本物だった……この肖像画の剣がそれだが、なぜか師匠は偽物と知っていて絵に遺した」
ベレンは二口めを飲んだ。
「でも、あの絵ではサファイアが柄にはまっていますよ」
「俺にもそこが謎なんだ。ついに真相は聞けずじまいだ」
絵をいくらながめても、まさに絵に描いた宝石だ。
「納得できなかった冒険者は、俺に鑑定を依頼した。そのとき俺は、修行をつんで一本だち寸前だった。師匠の許可をえて俺が鑑定しても、現代の誰かが作ってからこっそり地下迷宮に置いたようにしか思えなかった。なんのつもりか知らんが、とにかくいたずらはいたずらにすぎん。しかし、たまたま鑑定が夜中にさしかかった。ふとした気まぐれで、窓からさす月光に剣をかざすと柄頭のルビーに竜が浮かぶのがわかった。剣はいたずらだがルビーは本物だ、五百年前の品だった。だが、説明書のせいでうかつな分解はできない」
ベレンはとうとう、コップの水を飲みほした。
「師匠は、月光を浴びながら使うことで剣の秘密が明らかになるのではと考えた。しかし、危険をもたらすかもしれない。俺の反対を押しきり、師匠は一人で夜中に試し斬りをしようと外出した。次の日に変わり果てた姿で帰ってきた……肝心の剣はなく、左肩から右腰まで一息に斬り捨てられていた。くだんの剣の斬り口なのはすぐにわかったが、それ以上に……喉からへそにかけて一頭の赤い竜が焼きつけられたように浮かんでいた」
「師匠の師匠様は、誰が運んできたのですか?」
「地元の衛兵だ。試し斬りは川原でやっていて、師匠の遺体もそこにあった」
「犯人は見つからなかったのですか?」
「ああ。それこそ迷宮いりだ。呪われた鑑定士師弟とかなんとか噂がたって、俺には仕事がまったくこなくなった。だから、こんな貧民窟まで落ちぶれた」
空になったコップを、意味もなくベレンはもてあそんだ。
「鑑定を依頼してきたお客様は?」
「それも行方不明だ」
「でも同じ特徴のある遺体がでてきたということですね」
「ああ。こうなったら教えておこう。鑑定士の闇職人合同を」
「なんだか陰謀めいた雰囲気ですね」
それは私の得意分野だ。




