一、これが因果応報!? いまに見てらっしゃい! ニ
聖女は作法に外れないお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、ロネーゼ様。リオクでございます」
「お会いできてうれしいですわ、聖女様。さあ、お顔をあげて。お席についてくださいませ」
「恐れいります」
聖女が席につき、私も座った。
「旅から旅で疲れたでしょう。お茶はいかがかしら?」
「はい、頂きます」
素直に応じてくれて助かる。私が手ずからお茶をだすのは、いまやバル殿下くらいだ。もちろん、そんな無作法な自慢を口にはしない。
「お菓子もお好きにつまんでくださいませね」
湯気をたてる白磁のティーカップを、ソーサーをつまんで渡した。
「ありがとうございます」
「飲みながら、私のお話におつきあいして頂けませんこと?」
あくまでにこやかに、私は頼んだ。
「はい、よろこんで」
「初対面なのに、快く受けいれてくださってありがたいですわ。それで、お話と申しますのは……単刀直入に申しまして呪いですの。私自身にかけられた」
「ロネーゼ様に?」
お茶を飲む手が、さすがにとまった。
「はい。聖女様には失礼でございますが……宮殿はけっしてお人柄のよい方々ばかりではございませんの。もうご存知とは思いますが、私は近々第三王子のバル殿下と結婚いたします」
「存じております。おめでとうございます」
リオクは、世間なみに会話の歩調をあわせてくれた。
「ありがとうございます。でも、晴れがましい立場の陰で妬みがまして、どうも私を怪しげな術で呪おうとしている方がいらっしゃるようですの」
「それを私に解いて欲しいとおっしゃるのが、今回のご招待なのですね?」
「ご賢察ですわ」
「もちろん、やぶさかではございません。ただ……くわしいお話をうかがってもよろしいでしょうか? 申しあげるまでもなく、秘密厳守で」
「ええ、もちろん。子爵令嬢のギルモ様。このお方が、宮殿で賭博をおこなったという理由で追放されています。告発したのは私です」
そう。私が誘った。王子の気を引くためのお洒落や衣服にはお金がかかる。実家の援助にも限界がある。宮殿での賭博は禁止されているものの、いちかばちかで手をだす令嬢はあとを絶たなかった。もちろん、臨時雇いしたお抱えの賭博師を名代として参加させるのがほとんどだ。
ギルモはギルモで、私が第三王子をたぶらかして謀反を企んでいるなどという噂をバラまいていた。事実なら一族郎党皆殺しになる。もちろんデマだ。こういうときは、小銭稼ぎに情報屋のまねごとをする人間がでてくるのでなにかと助かった。ギルモは実家の資金力が私ほど強くないので、必然的に私のほうがより速くより豊富な情報を受けとれる。
ギルモには、私の息がかかった賭博師を雇わせた。彼女からすれば、自分がはめようとしている世間知らずのお嬢さんが逆に自分をはめようとしているなど想像もしていなかっただろう。