三、類は友を呼ぶ……とでもいうのかしら? 私は例外でございますわ! 四
「よく理解できました、師匠」
ほめられれば、すなおにうれしい。
「ふむ。次に、礼だ」
職人仲間同士のお辞儀かなといっしゅん思った。
「本物であろうとなかろうと、鑑定する品に対しては礼を尽くす。具体的にはあとで見せるが、柄を自分の左側においてから頭をさげる。それがすべてのはじまりとなる」
「はい」
「礼が終わると、いよいよ本格的な鑑定にうつる。そのためには、刀剣の基本的な部位を知らねばならない。たとえば剣を握る部分は一般には柄としかよばれないが、細かくわけるなら柄頭、握り、つばとなる。むろん、すぐに丸暗記できるものではないからおいおい知っていくといい」
「わかりました」
「鑑定の一歩目は、外見だ。このとき鞘や柄に宝石などがあしらってあればいうまでもなく別個に鑑定する。柄も鞘も基本的には一直線が望ましいが、実際には歪みやズレがどうしてもでる。作ったばかりのときはまっすぐでも、湿気にさらされたり直射日光にさらされつづけたりで変質するのはあたりまえと考えねばならない」
「はい」
「あと、対称かどうかも大事だ。形状にもよるが、左右対称、上下対称、これらは仕事を重ねれば薄紙一枚分のちがいもわかるようになる」
「そ、そんなところまで……」
「薄紙一枚分で品質が右左されるんだ。だから、厳しい修行を重ねねばならない」
「修行!?」
「滝に打たれたり炎で身体をあぶったりするものじゃない。仕事そのものが修行という意味だ」
ベレンは的確に私の内心を見すえた。
そんな調子で、午前中は実質的に座学となった。
「そろそろ昼だな。ああ、言いわすれたが昼飯はない」
「ええ、だいじょうぶです」
皮肉にも、王子との結婚にそなえて体重をしぼっていたのが幸いした。それに、ベレンの体格からしてある程度さっしをつけてもいた。
「師匠、あの方はどなたですか?」
壁にかかっている肖像画……年配の男性が、私は夕べからずっと気になっていた。実用一点張りのこの職場で、珍しく異彩をはなっている。絵そのものは凡庸なできばえながら、特徴はしっかり伝わってくる。中肉中背で、ずばぬけた美男子なんかではないけど整った顔だちではあった。両手で鞘に収まった剣を捧げ持っている。刃渡りは私の片腕くらいか。鞘には優美な緑色の唐草模様がほどこされ、柄頭には大粒のサファイアがはまっていた。
「俺の師匠だ」
「師匠の……」
「死んだがな」
「失礼ですが、お歳でですか?」
「殺された」
「……」
師匠の師匠は、庶民としてはかなりお金をかけた身なりをしていた。絵の中で持っている剣や師匠から受けた講義もあわせるに、成功した人なのだろう。
「鑑定には危険もつきまとう。逆恨みされることもある」
情報は多いにこしたことはない。どんないきさつがあったのか、聞きたくはある。しかし、非常に繊細な問題でもあった。




