三、類は友を呼ぶ……とでもいうのかしら? 私は例外でございますわ! 三
職場にもどると、まず仕きりをたてた。仮ベッド……としかいいようがない……とテーブルがくぎられた。今日のお仕事はこれでおしまい……なはずがない。これからが本番。
「では、仕事の説明をしよう。筆記用具は好きにつかっていいからメモはとりたければ自由にとるといい。座ってくれ」
「はい。ありがとうございます」
正直なところ、よほど重大なものでないかぎり読み書きは専門の侍女にまかせっきりだった。字を思いだすのも一苦労ではある。とにかく席についた。
「まず、鑑定の意義について。富と名声だ」
ベレンは言葉をくぎった。
「富と名声……?」
「そうだ。二束三文の大量生産品でも、信頼のある鑑定士が折紙をつけたら値段がはねあがる」
「折紙って……ツルとかウサギとか……」
「その折紙じゃない。鑑定書だ」
素でまちがえてしまった。
「ごめんあそ……すみません」
「だが、鑑定士のなかには製造元とつるんでインチキ折紙……鑑定書をつけることもある。害をこうむるのはなにもしらない所有者だ」
「はい」
「だから、厳正さが要求される。この世界では、ゼニカネ以上に信頼が重要だ。失ったが最後、とりもどす手だてはない」
「はい」
「だが逆に、真贋のあやふやな代物を明確に鑑定できれば大きな名声をえられる。その意味では美術品のような一面もある」
「師匠」
「なんだ」
「鑑定のために魔法を使うことはあるのでしょうか?」
「いい質問だ。折紙のツルよりはな」
軽くからかわれて、私は口をすぼめた。
「冒険者などが、地下迷宮でえた財宝をてっとりばやく判断するときにはよくつかわれる。あるいは、そうした品を買いとる業者もそうだ。だが意外な落とし穴がある」
「落とし穴?」
「実用的な品を本人が使うのならまだかまわない。たんなる指輪やネックレスを換金するとき、鑑定魔法をごまかすべつな魔法がまれにつかわれる。いたちごっこでキリがないんだ。ほどほどの値打ちしかない品ならどのみちごまかす意味はないから、意外と正直な値段にはなるが……」
「とても値打ちが高そうだと偽物がでまわることがあるのですね」
「それだけではない。伝説とか幻とか、そういう枕詞のつく代物にこそ偽物の可能性がつきまとうので魔法よりも専門家の目と手が重きをなす」
「刀剣のような、実用的な品でもですか?」
「まさにそこが微妙なのだ。偽物でもちゃんと使えるものはある。むしろ、偽物こそまともに使えるようになっているものもある。つまり、刀剣の鑑定書は機能と骨董の両面から追究されねばならぬ。具体的な鑑定基準は、別個に書物としてまとめてあるからおいおい使っていく。俺は丸暗記している。ちなみに昨日お前が粗さがしをした剣は、とある新米の鍛冶屋が作った新品だ。俺でさえ見おとしていた欠点を一発で見ぬいたのだから相当な眼力だ」




