三、類は友を呼ぶ……とでもいうのかしら? 私は例外でございますわ! 一
「はい……承知、です」
「よろしい。それでは、職場の説明をする。俺はふだん、この家の二階で寝泊まりしている。一階は作業場だ。その一部をお前の寝床にあてたのだが、来客もくることだし仕切りがいる。で、それを買いにいく。ついでに朝飯をくう」
たしかに両方とも大事だった。
「荷物もちはやってもらうぞ」
「も、もちろんでござ……です」
腕っぷしに自信なんてあるわけない。どれだけ重いか知らないが、やるしかない。
「ついてこい」
「はい」
ベレンは私をともなって家をでた。明るい陽射し……は通りにはない。屋上にでればべつだが、粗末な家がびっしりつまっているせいで隙間なく影がのびたりつながったりしている。悪臭だけははっきりしていた。汚らしい緑茶色のヘドロが道のそこかしこにたまっている。
「窓には注意しろ。たまに残飯や汚物がバケツから捨てられてくるからな」
「き、気をつけます」
そんなことをいわれたら、必然的にあちこちきょろきょろしてしまう。
「これから屋台市場にいく。なにかいわれてもお前は無視だ。必要なときは俺が答える」
ヘドロをよけながら、ベレンは命じた。
「はい」
屋台というと、宮殿での模擬店ごっこを思いだす。じつのところ、庶民の生活ぶりはそうした遊びである程度まで知った。ベレンはおろかこの辺り全域では口が裂けてもいえないが。
三十分とかからず、目あての場所についた。大小様々な屋台や露店が軒をつらね、さわがしく客びきしたり値段の交渉をしたりしている。なにより人いきれがすさまじい。密度によっては手ものばせないほどだ。
ベレンが足をとめたのは、そのものずばり『仕きり屋パーテ』だった。カーテンから衝立まで、大小様々な仕きりが道に直おきしたじゅうたんに陳列してある。
「よう、ベレン。あいかわらず人殺しに手ぇ貸してんのか?」
お店の大将……でっぷり太った赤ら顔の中年男性……が声をかけた。
「人聞きの悪いことをいうな、ヘタレの看板倒れ」
ニコリともせずに、ベレンはやり返した。
「おっ、ずいぶんなかわいこちゃんじゃねぇか。おっぱいの谷間むきだしだぜぇ。お前、いくらで買ったんだ?」
どこかのお芝居にでてくる悪党さながらの台詞で、逆に新鮮ですらあった。
「うるさい。よそをあたってもいいんだぞ」
「そう怒るなよ。朝から腰が大変だなぁ!」
「ほらよ」
ベレンは値札どおりのお金を払い、私にあごをしゃくった。よけいなことをいわず、私はベレンが勝ったばかりの仕きりを大将から受けとった。大将は私の胸元をじっとながめるのを忘れなかった。




