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ニ、救世主!? でも庶民よりひどい生活環境ですわ! 七

 この環境には、我ながら驚くほど簡単に適応できそうだ。疲れきっていたので、そのまますとんと眠りに落ちた。


「……おい、起きろ。もう朝だぞ」

「うーん……飲み物はアイスココアでよろしくってよ」

「寝ぼけるな!」


 はっと目をさますと、腰に両手をあてたベレンが私をうえからのぞいていた。


「きゃあっ! これは不作法……あらいやだ。ごめんあそばせ」

「ごめんあそばされても困るからとっとと毛布をたため」

「はい」


 起きて毛布をたたみおえると、ベレンはくいっと右親指で部屋の隅をさした。粗末な木箱がいくつかつながっている。


「ベッドまでかまえる余裕はないからな。当分、あれがおたくの寝床だ」

「かしこまりました」


 たたんだ毛布を木箱のうえに横たえてから、私はベレンの前にもどった。


「あと、服だな」


 はっ……。こ、この私が……。なんという愚かしさ! 昨日のたちまわりでびりびりのぐしゃぐしゃになったまま。髪や肌はどうにでもなるとしても、この服を人目にさらしていたなんて……!


「そう焦るな。俺のお古を貸してやる。靴は詰め物でもすればどうにかなるだろう」

「え、えー……あー……お、恐れいります……」


 適応力! 適応力! 頭をさげるほかない。


「あっちに洗面所がある。着がえかたがた顔を洗ってこい。その服は、持っておきたければベッド用の木箱にでもいれておくんだな」

「はい」


 洗面所とはいうものの、質素なカーテンでしきられた空間に蛇口と小さな鏡があるきりだった。シャワーすらない。洗いざらしのタオルは壁にあった。ここでタオルをぬらして身体をふくくらいなことはしているのだろう。


 脱衣かごとおぼしき木箱には、たしかに服があった。下着まではない。毎日、否、朝昼晩ごとにかえていた私からすればある種の拷問にひとしい。一方で、できるだけのことはしてくれている。


 まず、ドレスは捨てるに忍びなかった。いざとなったら、ハッタリでもお金になる可能性はある。陰謀にはなにがしかのお金がいる以上、そうした観点はこっそり身につけていた。


 下着とは決別せざるをえない。それに、ベレンだろうと親だろうと絶対に見られたくない。おつきのメイドなら、それが仕事だから問題なかったのだけれど。


 私はタオルを水にひたした。全裸になって手ばやく身体をぬぐう。タオルは改めて洗いなおしてから元にもどした。それから服をかえた。殿方のズボンだのシャツだのを肌にあわせるのは生まれてはじめてだ。袖も裾もだぶだぶだったので、まくるなりしばるなりした。すると、おへそがちらちらするようになる。これはこれで死ぬほど恥ずかしい。でも、せざるをえない。

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