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ニ、救世主!? でも庶民よりひどい生活環境ですわ! 六

 剣でも斧でも、一度興味をもってしまうとさわりたくなる。さわったら使いたくなる。使ったらほめられたくなる。私の心は素でそうなりつつあった。だから、短剣を手にした。右手で柄を軽く握り、左手で鞘からぬくとなめらかに刃が現れた。両刃で、白銀に輝いている。刀身の中央には細長い溝がはいっていた。


 全体的に、羽根のように軽い。そして、切っ先は細ながい二等辺三角形になっていた。斬るより刺す方を想像しやすい。いや、刺しながら斬り裂くのか。殿方の決闘も知らなければお菓子くらいしか作ったことがないので具体的な用途がはっきりしない。それでは価値が定まらない。


 いや、貴族の女性でもたしなみとして料理や決闘以外で刃物をつかう機会があった。もちろん、木工作業の類ではない。


「身分の高いご婦人が、誇り高い最期をとげるのにうってつけですわ」


 そう。ぜいたくざんまいな宝石や豪華な柄巻きなど必要ない。死ねば無だ。ならば、必要最小限の機能だけが要求される。


「ほう、よくわかったな。正解だ」


 ベレンの審判に、不覚にも気がゆるみかけた。


「まずは自分の境遇を頭に叩きこ……ふわぁ~あ」


 欠伸した口元を隠しもしないで、ベレンは大きく肩をゆすった。


「毛布の予備をだしてやるから適当に敷いて寝てくれ。細かい話は明日の朝だ」

「かしこまりました」

「よし。短剣は元通りにしとけよ」


 ベレンは椅子からたち、部屋の奥に消えた。階段を登り降りする音をへて、二枚の毛布をかついでやってきた。


「では、明日。ランタンはほっとけば勝手に消えるから」

「はい、お休みなさいませ」


 長い……とても長い一日だった。夕べまで、夜の湯浴みをしてお肌と髪の手いれをメイドにさせてからふかふかな羽毛ベッドにもぐりこんでいたのに。職人の仕事場で、固く冷たい床に薄い毛布をしいて寝ることになった。べとべとした生ぬるい空気がニオイつきでまとわりついてくる。


 でも、うれしかった。野たれ死にせずにすんだのもさることながら、聖女に復讐する機会ができた。運も実力とはよくいったものだ。


 ベレンが夜中に私を悪さするようには思えない。なんというか……そういう類には淡泊な、または不慣れなようだ。私も会話でしか殿方とおつきあいしたことはないものの、確信があった。もっとも、たがいに傷の手あてをしたときは少々性別を意識してしまってやりにくかった。私にだってベレンにそんな気はない。あるはずがない。


 私は自他ともに認める陰謀家だ。陰謀家の真の値打ちは陰謀そのものではない。どれだけ自分と異質な環境に適応できるかにつきる。まるである種の動物のように、体色を周囲にあわせて溶けこむ。弁舌や洞察はそのあとだ。

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