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ニ、救世主!? でも庶民よりひどい生活環境ですわ! 五

 自業自得なのは百も承知だが、王子だって浮気していたのだし。というより、王子の浮気を受けいれて追放される代償として犯罪者の汚名だけはなしですんだ。


「難しいな」


 一連を聞きおえたベレンが口にした、最初のコメントだった。


「王家や実家と絶縁されたことが、でございますか?」

「それもある。一番重大なのは、おたくにはめられた人間の行方だ。ここをつきとめたらどんなやり方でしかえししてくるか、想像もつかん」


 まさに急所だ。


「そいつが殺し屋でもやとってきたら、おたくはどうする。いっとくが俺はそこまで命がけにはなれんぞ」


 むしろ予想していたとおりの質問であり反応だった。馬にゆられているあいだ、ずっと考えてきた。


「そのときまでに、もう一度宮殿へ参りますわ。聖女様にとりひきをもちかけます」

「とりひき?」

「私の悪事を暴いてまで殿下を横どりするなら、聖女だなんて表の顔にきまってますわ。うしろ暗いところだらけにきまっておりますもの。なければ作ればいいですし」


 そう。たんに正義感や義憤でやったことなら、わざわざ王子との仲をあの場で知らせる必要はなかった。せめて隠すふりくらいはするべきだった。


 あのときの聖女の笑い。あれが、逆転のきっかけとなる。


「なければ作る、か。それはそれで理解しよう」


 なんとも微妙な表現だった。


「私は合格ですの?」

「これからきめる」


 机のうえにある短剣を、彼は私の目の前においた。


「その短剣がどのくらいの値うちをもつのか、判断してもらおう。五分待ってやる。質問はなしだ。では、はじめ」


 ベレンは黙りこくった。


 短剣を手にする前に、私はじっくりと外見を観察した。新品な反面、飾り気はない。実用一点ばり。さすがに庶民の金銭感覚まではわからないから、もっとちがう形で考えねばならない。


 そもそも、武器の目利きなんて仕事じたい聞いたことすらなかった。ばくぜんと、鍛冶屋が作った品を商人が買いとって売っているくらいにしか思ってなかった。それすらまた聞きにすぎない。唯一の先制点は、私が苦しまぎれに剣をけなしたことでベレンを驚かせた一件だけ。


 ならば、私は自分に自信を持たねばならない。この試験に失敗したら、ほうりだされて私は破滅だ。そんな圧力に屈してなるものか。私の基準はあくまで私! 私がマルといったらマル! バツといったらバツ!


 私を基準にするなら、この短剣はぴったりだ。ぴったり私の手でつかえる大きさ。女性の魚屋さんが使うものだろうか。

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