一、これが因果応報!? いまに見てらっしゃい! 一
この国でいちばんの、華やかな社交の場。すなわち王宮の私室で、私……ボネス伯爵家の令嬢ロネーゼは来客を待っていた。テーブルにはお茶とお菓子のセットもぬかりない。
夏がすぎたもののまだ暑く、日中ということもあり冷却魔法が部屋を快適な温度に保っていた。
待ち時間の退屈しのぎに窓をながめると、宮殿の中庭ごしに庶民の住宅地や商店街がみえた。何か月か前、こっそりお忍びで『探検』した。一人で。さらにその先には、ぼんやりとなにか潰れかけた小屋のようなものがならんでいる。小屋の内容まではしらないが、殿方は話題にしたがらなかったので自然と私もさけていた。
来客とは、聖女リオクだ。この国には一人しかいない。言葉どおり、神の力を使って様々な奇跡をおこす。ふだんは国内を旅してまわり、恵まれない人々を助けている。たまたま、数日前に都までくるというからあらかじめ遣いをよこしておいた。
いま、部屋の中には私しかいない。侍女も部屋つきのメイドも人払いしてある。
聖女ならば、私に害をなしかねない可能性の始末に一役買える。むろん、剣だの魔法だのを振りまわすわけじゃない。それは、本人にも気づかれないように話をもっていく。
壁にかけられた振り子時計は、約束の時刻まであと五分を示している。聖女ともあろう者が遅刻するとは思えない。そうはいってもついつい時計のすぐ下にある鏡に目がいってしまう。
自分でいうのもなんだが、十八歳のはちきれんばかりな肉体。銀色のドレスに白い長手袋。薄桃色の口紅を引いた唇はまだ誰にも許していない。これから許す予定ならある。
第三王子のバル殿下は、数週間後には私の唇といわず、全身を好きなようにできる。もちろん、私も同じようにするつもりだ……おたがい生まれたままの姿で。より世俗的には婚約という。
何度もセットしなおした、ゆるくカールを巻いた金色の髪に手がのびかけたとき。ついにドアがノックされた。
「どなた?」
「失礼致します。聖女リオク様がおみえです」
ドア係のメイドが、ドアを開けて告げた。
「お通ししなさい」
「かしこまりました……どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます」
戸口ごしの会話に私の鼓動はいちやく高まった。
「失礼します」
聖女リオクが姿を現した。尼僧が身につける質素な薄墨色のワンピースに薄青色の頭巾。宮殿の様々な場所に飾られた宗教画そのままの外見だ。藁色の髪は短く切られ、化粧はしていない。鼻筋は私よりも高くとおっていた。背は私の方が高い。胸も大きいし。
私は椅子を引いてたちあがった。