こんな茶番に付き合うほど暇じゃない
「アンジェラ・オールドリッジ、貴様の悪行もここまでだ!
今この場で殿下の婚約者の座から降りてもらう!
なにか言いたいことがあるなら言ってみろ。」
オールドリッジ公爵家令嬢アンジェラを学園卒業式後の慰労会の会場である講堂の壇上からニヤニヤと見下ろしながら言い放ったのは婚約者であるクリフォード・アレキサンダー王太子の側近である宰相子息チェスター・トンプソン。
壇上には他に青ざめた顔をして俯く王太子殿下の隣にドヤ顔したふわふわピンク髪青眼貧乳背が低くて庇護欲そそる系童顔の男爵家令嬢の某とチェスターとともに殿下の側近をはらしてもらっている騎士団長子息の某。
金髪碧眼ドリルヘア巨乳ナイスバディのキツめの美人のアンジェラはただでさえイラついていたところへきてこの仕打ちに完全にブチギレていたのでチェスターなど眼中になく、
「アナタ、これは一体なんなんですか?」
地の底から響き渡るような重低音が王太子殿下を直撃した。
ビクッとなった殿下は観念したように婚約者に対面する。
「い、いや、これはその、チェスターが慰労会の余興をやろうって言うから…」
「それで?私になんの役をやれと?なにも聞かされておりませんが?」
「ち、ち、ち、違うんだ。私もなにも聞かされてなかった!
済まない!この通りだから!踏みつけても鞭打っても構わないから!許しておくれ、頼む!!!」
「サラッと性癖を織り込まないでくださいな。
だいたい、忙しいこの私に是非にといって慰労会まで出席させたのは殿下でしょう?
なにも知らないなんてオカシイではありませんか。
チェスターにどうやって丸め込まれましたの?」
「そ、それはチェスターが懇意にしている令嬢を彼女が憧れているアンジーに会わせたいからと…」
「まあ、その子が私に憧れを?」
なんか色々と思惑とは遠いところまできてしまっていたが愛する令嬢からの信頼を少しでも取り戻そうとチェスターが口を挟む。
「白々しいぞ!今まで貴様がこのご令嬢をさんざん虐めてきたのだろうが!」
「なにを言うかと思えば。そんな子は知りませんよ。初めて見ました。
私はこの半年、子育てで忙しかったですからね。学園にもほとんど来られないありさまで。」
「殿下、だからサッサと公表すべきだったんですよ。
この手の勘違い野郎どもがすぐに良からぬことを企む。
なのに「学生でいる間だけは自由を謳歌させてくれ」だなんて。
婚約してすぐに手を出すような不埒な男が言っていいセリフではないでしょう。
今夜は殿下がお風呂係ですからね。
私の侍女ももう限界です。未婚の女に慣れない子育てを押しつけて。
しかも王位継承者じゃないですか、生きた心地がしないって泣かれました。
いい加減義務を果たしてください。
いつまでも学生気分では国王になんてなれませんよ。
さ、帰りましょう。」
「あ、チェスターとそこのご令嬢は拘束してちゃんと調べてね。近衛さん仕事してちょうだい。では、みなさまごきげんよう。」
アンジェラは言いたいだけ言って泣いている王太子殿下の襟首を掴まえるとズルズルと引き摺ってそのまま退場した。
その後の調査でチェスターと男爵家令嬢は王太子妃、その後の王妃の座を奪って王を傀儡としようと画策していたことが判明した。
第一段階として王太子の婚約者を排除する計画があの夜実行されたのだ。
色々と冤罪の証拠を捏造してきていたらしいが王太子を上手く巻き込めないままに事に及んだらしい。
このところ公の場にも姿を現さない婚約者とは疎遠なのだと勝手に誤解したため決行に至ったようだ。
まさか殿下の子どもを産み育てていようとはと調査官も少し同情したとかしなかったとか。
彼らは数人の関係者とともにサクッと処刑された。
卒業式の次の日には慌ただしく王太子の長男の誕生が公表され、結婚式の予定が前倒しになった。
世間はちょっとだけ微妙な空気は流れたものの慶事には違いないので祝福ムードにはなった。なんとかなった。なったとしよう。
半年間王孫の夜泣きに苦しめられたアンジェラの侍女に乳母となる栄誉を与えようと国王陛下から打診があったが全力でお断りしたとか。