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トライブレイバー・番外伝  作者: 窓井来足
2/2

「ツチノコを取りに行こう その2」

前回、識句くーちゃんと一緒にツチノコを探しに行くことにした水槌。

そんな彼女たちの前にツチノコを名乗る何者かが現れて……。

 さて、あの喫茶店のやり取りから数日経った日曜日。


 清々しい早朝の空の下。

 あたしとくーちゃんは、市内のとある公園に網と蛇用の捕獲棒を持って立っていた。


 そして、目の前にいるのは自称ツチノコである。


 いや、これだけ言われたら何が何だかわからないだろうから順を追って説明すると。


 まず、くーちゃんが言うには。

 かつてこの付近でツチノコが目撃されたという事が新聞に載った事があるらしい。


 いや、本当かは知らないけど。

 少なくともくーちゃんはその情報を信じたいようだ。


 とはいえ、まあ。

 流石の彼女もいきなり公園の草むらをがさがさ漁ってツチノコが出てくるとは思っていないらしく。


 今回は「実際にいそうな場所かどうか、調べてみましょう」という理由で、その目撃された地域にある自然の多い公園に来たのだが。

 それでも万が一ツチノコが出てきた場合に備えて、彼女は自宅から網と捕獲棒を持ってきたのだ。


 で、次に。


 そんなあたしたちの前に現れたのが、先に言った自称ツチノコ。

 と、いうかツチノコ怪人である。


 見た目は人間と同じくらいの背丈のツチノコに、人の手と脚が生えたような奴で。

 なんか昔の特撮にこんな感じの蛇怪人がいた気もするけど。


 正直、そっちの方が断然迫力があったなというか、そもそも比較対象にしていいんだろうか?

 と、思えるくらいに、見た目がしょぼい。


 で、そんな自称ツチノコが。

 あたし達に向かって。


「この俺様を捕まえようたぁ、身の程知らずにも程があらぁ」


 とか言っているのだけど。


 うーん。

 流石に、あたし達もこんな奴捕まえに来たわけじゃないよねぇ。


 ねぇ? くーちゃ……


「何よあなた。邪魔なのだけど」


 えっ、酷っ!!


 あ、いや。


 確かにくーちゃんからしたら「可愛いツチノコさんを探しに来たのに、変なのに絡まれた」って感じだから冷たく当たるのも仕方がないのだろうけど。


 相手さんからしたら「テリトリーに入ってきて、その上自分を捕まえようとしている連中」なんだから、ここはもう少し大人しく……


「大体、何であなたなんて捕まえないとならないのかしら? 私はツチノコを捕まえに来たのだけれど」


「だから、それは俺様の事だろう? あぁん?」


「いえ、違うわ。ツチノコはもっと可愛いものよ」


「勝手言いやがって!! 俺様を馬鹿にしてぇのか!?」


 ちょ、ちょっと。

 このままだと戦う事になっちゃうじゃん。


 もう!! ここはあたしが。


「ゴメンゴメン。この子にはあたしが言って聞かせるから、今日のところは――」


「今更そんな事言っても遅ぇんだよ!!」


 あー駄目か。

 完全に怒っているわ。これ。


 これが人間同士だったら「腹が立ったからって暴力は良くない」っていう理屈が成り立つんだろうけど。

 こいつもあたしも、人間じゃないからそうもいかないし。


 ――仕方がない。

 あたしとしては今回はくーちゃんが悪い気もするけど。

 戦いになったらまずは友達(くーちゃん)を護ろう。


 と思い、とりあえずあたしは自称ツチノコが何時襲ってきても対応できるように身構える。

 が、その自称ツチノコは。


「お前らなんかに俺様を捕まえる事ができる訳がねーだろ!! あばよ!!」


 と言って、猛スピードで逃げ出す。

 しかし、それを。


「逃がさないわ」


 と、くーちゃんは即座に手首から射出した糸で捉えた。

 そして。


「な、なんじゃあ!?」


 と言いながら、くーちゃんの方に自称ツチノコが手繰り寄せられる。

 この一連のやり取り。時間にしてわずか三秒……あたしの感覚だと。


 で、しかも。

 その際にくーちゃんはカイコガ怪人の姿に変身もしていたりする。


 これは糸を出すだけなら人間態でもできるのだけれど。

 怪人態の方が力は強いから、手繰り寄せる関係でそうしたのだろう。


 ちなみに。

 本来、カイコガは野生では生きられないような弱い生き物なんだけど。

 くーちゃんが変身しているのはあくまでカイコガの力を持つ怪人なので。

 ()()という面で力が人間より強いのである。多分。


 で、話を戻すと。

 そんなカイコガ怪人に捉えられた自称ツチノコは。


「て、テメェらも人間じゃあなかったのか!?」


 と、目をパチパチしながら、驚きを露わにする。

 そして、これに対し。


「人間じゃあないのはそっちのおねえさんだけよ。私は人間が変身できるようになっただけ」


 と丁寧に回答しているくーちゃん。


 うーん、そこを丁寧に答えてあげるなら、最初から自称ツチノコさんを丁寧に扱ってあげようよ――と思ったけど。

 いや、くーちゃんの性格的には。


 さっきの邪魔発言も今回の返答も、言いたい事を簡潔にストレートに言っただけで。

 多分、他意はないんだよねぇ……。


 まあ、それでも普段のくーちゃんなら、相手がどう受け取るかまで考えたりするんだろうけど。

 今はツチノコ取りっていう趣味に没頭している状態だから、ちょっと興奮気味っていうか。

 彼女の場合、内面では興奮していても表情や口調はいつものままだから、それがますます周囲からは誤解されて……って。


 いやまあ、それは今はいいとして。

 あたしとしては。


「くーちゃん。こいつ……いや、この怪人(ひと)を捕まえる気はなかったんじゃないの?」


 ってのは気になるよね。


 だって、さっきくーちゃん自分で「捕まえないとならないのかしら?」って言っていたし。

 だったらそのまま逃がしてしまっても――。


「自分でツチノコだって言うから、少なくとも何か知っていると思って」


 あ、そういう事……なんだろうか?

 何か、単に相手の「捕まえる事ができる訳がねーだろ!!」という挑発に乗って咄嗟に捕まえただけな気もするんだけど。


 ……ま、まあくーちゃん自身がそういうならそういう事にしておこう。うん。


「知ってるも何も、俺様がツチノコだって言っているだろうが!!」


「いいえ、あなたは私が探しているツチノコじゃあないわ」


「んな事ねぇよ!! 俺様こそ、まさに真のツチノコだぜ!!」


「くーちゃん。確かに彼は動物のツチノコじゃないかもだけど、怪人というか妖怪というか……兎も角、そういう方の意味ではツチノコなんじゃないかな?」


 そりゃあ誰が見たってくーちゃんが探していたような動物のツチノコじゃあないだろうけど。

 一方、こいつがあたし達が喫茶店で話していた神や妖怪としてのツチノコの方である可能性は高いと思うんだよね。


 多分、あの時あたしが言わなかった予想通りに――


「……そうかしら?」


「え?」


 そうかしらって、ちょっと。

 この状態で、こいつがツチノコ怪人じゃないって言うわけ?


 いやいや、流石にこいつが「自分がツチノコだ」って嘘つく必要性はないから、普通に考えたらこいつがツチノコ怪人って事でいいじゃん。

 一体何が駄目なのさ?


 と、思っているあたしを横に、くーちゃんはその自称ツチノコさんの顔をしげしげとみて。

 そして。


「さっき彼、瞬きしていたわよね?」


 と言った。


「……あ、うん。していたけど……で?」


 いや、確かにさっきこいつ、くーちゃんに捕まった時驚いて瞬きしていたけど。

 それが何?


「ツチノコがヘビなら(まぶた)ってないのよね。確か」


「あ、いや。そうだけど。でも……」


「瞼がないはずなのに瞬きしているって事は、彼はツチノコじゃない可能性が高いわ」


 あ、ああなるほど……ってそんな馬鹿な。


 だって、それを言ったら蛇怪人なあたしだって瞼あるし。

 そもそもツチノコがヘビだって確定している訳じゃないし。


 大体、カイコガ怪人のくーちゃんが、多少は戦えるくらいに力があったりするように。

 あくまで動物は動物、怪人は怪人だし。


 それに。


「そんな事言ったら、あいつ手も脚もあるじゃん。だから瞼だって――」


「そう。手も脚もあって、瞼もあるならそれはトカゲ怪人なんじゃないかしら?」


「ええーーッ!?」


 いやいやいや。

 それは流石に無理があるんじゃないかな?


 これは……そろそろ止めた方が。


「確か、アオジタトカゲというのがツチノコに似た見た目だったわ。つまり、こいつはツチノコ怪人じゃなくて、アオジタトカゲ怪人って事ね」


「ちょ、ちょっと待ってよ」


「何よ」


「瞼があるのも手足があるのも、怪()だからかもしれないじゃん。両方とも()()の特徴なんだし」


「……そうね。わかったわ」


 良かった。わかってくれたらしい。


 まあ、彼女だって冷静な時はそれぐらいの事は当たり前のように考えられるのだ。

 だからあたしが、ハッキリ言えばわかってくれて当たり前……


「なら、もっとじっくり彼の身体について調べて、トカゲかヘビか確かめましょう」


「え? いや、ちょっと。そうじゃなくて」


 あたしが発した否定の言葉より早く、くーちゃんはゆっくりと、しかし確実に、糸でぐるぐる巻きにされて動けなくなっている自称ツチノコさんに手を伸ばす。

 その手つきは……冷静な感じなのが逆に怖いんだけど。


「お、おいテメェ……俺様に何するつもりだ!?」


「大人しくしていたら痛い事はしないわ。もっとも私としては本当は解剖までして調べたいくらいなのだけれど」


「や、やめろ……こっち来るんじゃねぇ!!」


 ぐるぐる巻きのまま、最後の力を振り絞って後退りをしながら自称ツチノコさんは、くーちゃんに対して命令とも懇願とも取れる言葉を口にする。

 けど、そんな事はお構いなしにくーちゃんは彼に向かって歩みを進め――


「さあ、あなたの正体をについて身体(からだ)に聞かせてもらおうかしら」


「俺様の傍に近寄るなああーーッ!!」


 恐怖のあまり叫びをあげた自称ツチノコさんは。

 そのまま光の粒と化し、空気中に散った。


「あ、消えた……」


「え? どういう事?」


 うん。実のところ、これ。

 普通に怪人を倒したって事なんだけど。


 くーちゃんからしたら「怪人を倒す」っていうのは、必殺技とかを喰らわせてやっつける感じでイメージしているだろうから。

 これが何故、怪人を倒した事になるのか、さっぱりわからないよねぇ。でも。


「これは多分――」


 ☆ ☆ ☆


「つまりあれは『ツチノコという未確認生物がいる』という噂、それ自体が実体化した妖怪のようなものという事かしら?」


「うん、まあそんな感じ」


 あの後。

 結局、今日はツチノコを探す気分ではなくなってしまったくーちゃんと、あくまで彼女に協力しているだけで元々探す気はあまりないあたしは。


 持ってきていた網や捕獲棒を一旦、くーちゃんの家に置いて。

 彼女の家の近くの喫茶店に来て、とりあえずランチにハンバーガーを食べてから。


 そのまま店内で、ツチノコ取りに関しての反省会……という名の、ツチノコ怪人の正体について話し合いをしていた。


 まあ、話し合いって言ってもあたしが、おそらくこうだろうという推測を一方的に言ったのに近いんだけど。

 まあそれはともかく。


 そう、あのツチノコ怪人の正体は。

 今、くーちゃんがまとめてくれたみたいに「ツチノコがいるという噂、そのものが妖怪化したもの」である。


 そもそも、あたし達が妖怪とか神とか呼んでいるものは。

 元々、人とは関係なく存在した〈何かの力〉に、人間の想像力が影響を与えて発生したものが大半で。


 普通は〈何かの力〉が起こした現象に対して、人間が「あれはこういうものに違いない」と想像力を働かせたことによって〈何かの力〉の方に人間がイメージした要素が付くんだけど。


 今回の場合は、何かをするほどでもない微弱な力に「ツチノコがいるに違いない」というこれまた微弱な噂が結びつき。

 あのような弱い妖怪が生まれたのであり。


「そして、全国でツチノコが発見されているのは、今回の件みたいに」


「その場にある微弱な力に、ツチノコを探している人が持つ『ツチノコがいるんじゃないか』という想像力が結びついて、妖怪が生まれるから……という事かしら?」


「そういう事」


 まあ、これがこの前くーちゃんに言わなかったあたしの予想って訳なんだけど。

 ただ、これだけだと今回の件に関しては説明不足な訳で。


「で、目撃されているツチノコが怪人じゃなくて蛇みたいな姿なのは――」


「今回あの場にああいうハッキリした怪人が登場したのは私たちの側が普通の存在じゃなかったから……でしょう?」


「うん。まあそうだねぇ」


「普通の人間にはああいう弱い妖怪の姿を見る事はできないでしょうし。仮に霊感が強い……というのかしら? 兎も角、そういう人でも精々蛇みたいな何かがいたとしか思わないのでしょうね」


「お、そこまでは予想がつくんだ」


「まあ、私もこういう世界を知ってからそれなりに経験を積んでいるもの。とはいえ」


「いえ?」


「何であのツチノコ怪人は、突然消えたのかがわからないのだけれど」


「いやいや、それはあの段階で彼が敗北を認めたからじゃないかな?」


「あの段階で? それって恐怖によって消えたって事?」


「うーん。それもある気がするけど。一番の理由は彼が〈ツチノコの怪人〉じゃなくて厳密には〈ツチノコの噂の怪人〉だったからだと思うよ」


「そこに違いが……あ、もしかしてそういう事?」


「ん? どういう事かな?」


「彼が〈ツチノコという未確認生物がいる〉という噂から生まれた妖怪なら、捕まってしまった段階で未確認ではなくなるから存在が成り立たなくなるという」


「うん。多分そうなんじゃないかな」


「なるほど。だからあたしが挑発しても襲ってくるのではなく逃げようとしたのね」


「まあ、そうなんだけど……」


 おそらく、くーちゃんの推測通り。


 あの会話の流れで彼が逃げるという行動をとったのは「自分を探している相手から逃げる」というのが彼を構成している噂にとって重要な要素だったからなんだろうけど。


 それよりもあたしとしては。


「って、挑発していたの?」


 という方が気になる。


 くーちゃんの性格からして、単に言いたい事をハッキリ言っただけで、相手の怒りを誘うためにあえて言った訳じゃ無いと思っていたんだけど……。


「ええ。その方が手っ取り早く捕まえられると思って」


「………………」


 くーちゃん、そこまで考えて……いやいや待て待て。


 今言った手っ取り早く捕まえられると思ったってのが言い訳で、あの時は単に感情的になって言っただけかもしれないか。


 うーん。

 顔や口調にあまり感情を出さないくーちゃんの気持ちや考えを、彼女と一緒にいて大分察することができるようになったとはいえ。

 今回については、珍しく彼女が興奮していた事もあって、どっちが本音か流石のあたしもわからないなぁ。


 ま、いいけど。


 そんな事より。


「で、まあ話し戻すと。今までツチノコが捕まっていないのもその特性があるからだと思うんだよね」


「? そうなの?」


「うん。仮に実体化したツチノコを、運よく網か何かで捕らえたとしても、捕らえた段階で妖怪としての実体を保てなくなるから消滅する……っていう」


「なるほど」


 そう。

 ツチノコの正体が噂話を核に、周囲のエネルギーが集まってできたような曖昧な存在でも、それが実体を持っているならば。

 難易度は高いとはいえ一応、普通の人が網や罠で捕まえる事もできる。


 けど、捕まえると「未確認生物の噂」という核の部分が崩れてしまうから、捕まえた段階、あるいは周囲の人が捕まえたと認識した段階でツチノコは消滅してしまう。


 だからどう頑張ってもツチノコを捕まえる事はできない。


 ので、これでくーちゃんもツチノコ取りは諦めてくれるはず――


「でもそれはあくまで、妖怪のツチノコの話よね?」


「え?」


「確かに今回の一件で、妖怪のツチノコがいて、それは捕まえられない事はわかったけれど。それは動物のツチノコがいない事の証拠にはならないわ」


「い、いやそうだけど……」


「という訳で、今度こそツチノコを捕まえに行きましょう。範囲を町田以外にも広げればまだまだツチノコがいそうな場所はあちこちにあるわ」


 ええーーッ!!


 いや、ちょっと。

 ここで「そうね、正体もわかったし、この件は良しとしましょう」とかなるんじゃないの!?


 ――と思ったけれど。


(彼女的基準で)可愛い動物大好きなくーちゃんがたった一回の失敗で諦める訳もなく。

 結局。

 あたしたちはこの後、何度かツチノコ取りに向かう事になるのだった。


 そして、そこで――っと。

 この続きはまた次の機会にって事で。今回のところはここまで。


(ツチノコを取りに行こう・完)

今後、ツチノコ編第2弾があるかはわかりませんが。

「水槌が蛇神なので、蛇にまつわる話なら町田と関係なくても扱う」

という計画があるので、もしかしたら第2弾もあるかもしれません。


その際はまた、よろしくお願いします。

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